第3話
サタン「この新入りの名前が決まらぬ限り話がまったく先に進まぬではないか…
こうなったら魔界に古くから伝わる、伝統の命名法
『合集名』を行うしかないな。
まず、わしと漆黒のレヴィアタンと金色のベルフェゴールとで、
それぞれがお前のために単語を1つづつ用意する。
そして、その3つをつなぎ合わせてできた名がお前の新しい名だ」
俺「3つの単語をつなぎ合わせてできる名前ですか…」
サタン「うむ。例えば『ナイト・オブ・ダークネス』とか
『メッセンジャー・フロム・ヘル』とか」
俺「あ、その例えのでいいです!というか、それがいいです!!」
サタン「ではまず漆黒のレヴィアタンよ。
こやつに相応しい悪魔的な言葉をッ!!」
俺(こ、こいつ聞いてねえ…やべえ…この流れ…嫌な予感しかしねえッッ)
レビ「そうですね…じゃあ神の軍団をバッサバッサと
倒していって欲しいという期待を込めて、
『ハンター』という言葉を贈ります!」
俺(なんだ。意外にもすごくマトモな言葉じゃないか。
一見ふざけてるように見えて、実は俺のことを真剣に考えてくれていたのか…
疑った自分が馬鹿だった…すまねえ、みんな!)
サタン「ふむ、『ハンター』か。若干ありきたりな気もするが、まぁいいだろう。
次は金色のベルフェゴールよ、こやつに相応しい悪魔的な言葉をッ!!」
俺は仲間を疑っていた自分の浅ましさを反省しつつ、
期待に胸を膨らませ金色のベルフェゴールのほうを見る。
しかし金色のベルフェゴールには周りの声は全く聞こえていなかったらしく、
どこからともなく持ってきたパイプ椅子に腰掛け、
コンビニの袋から弁当を取り出し開封しようとしていた。
俺(こ、この人…この流れで弁当食おうとしてやがる…)
開封が済み、今まさに食事が始まろうとしていたそのとき、
なにか重大なことに気がついたかのように彼女の動きが止まった。
俺(様子がおかしいぞ…あ、そうか!やっぱり弁当を食べる用意をしながら、
俺の名前のことを考えてくれていたんだッ!
そして今、いい言葉が思いついたということに違いないッ!!)
俺の期待は再び高まる。
そして不意に金色のベルフェゴールが誰に語るでもなくつぶやいた。
ベル「割り箸(が入ってない)…」
そう一言だけ口にすると、弁当をパイプ椅子の上に置き、どこかへ去っていった。
俺(へ?…)
サタン「ほう、『ワリバシ』とな。
さすがはわしの右腕ともいうべき金色のベルフェゴールよ。
さすがのわしもその発想はなかったぞ。これで2つの言葉が出揃ったな」
俺(わ、ワリバシを採用するんですかッッ!?)
サタン「残るはわしだけか。この活きのいい2つの素材を
うまく引き立てることができるかは、わしの最後の言葉次第ということだな。
フフフ…まるでレストランのシェフにでもなった気分だわい。
待っておれよ、この食材を最高の逸品に調理してやる」
俺(『ハンター』はともかく『ワリバシ』は絶対調理不可能だってッッ!!
てかよく考えたら『ワリバシ』って食材じゃなくて食器じゃねえかッッッ!!)
そう言うとサタン様はそっと目を閉じ、瞑想を始める。部屋に長い沈黙が訪れる。
およそ五分後、金色のベルフェゴールがコンビニのワリバシを持って帰ってきても、その瞑想は続く。
俺(サタン様が新入りである俺の名前を、ここまで真剣に考えてくれている。
なんて配下思いの王様なんだ。さすがは魔界の王と呼ばれるだけのことはある)
金色のベルフェゴールが弁当を食べ終わり、デザートのティラミスへと口をつけても、その瞑想は終わる気配を見せない。
俺(いくら真剣に考えているにしても、さすがに少し長すぎないか…
いやいや、俺のために考えてくれているんだ。こんなこと考えたら失礼だ)
さらに10分ほどが経過した頃、どこからか異様な音が聞こえてきた。
地獄の亡者のうなり声のようにも聞こえるその禍々しい不快な音は、一定の間隔で鳴り響いた。
どうやらその音はサタン様が腰掛けている玉座のほうから聞こえているようだった。
それに気づいた漆黒のレヴィアタンが驚きの表情で口を開く。
レビ「ま、まさかこれは瞑想を極めた者だけが発することができるという
伝説の音、極瞑音なのでは!!
さすがはサタン様、この短時間で瞑想の極意を習得なさるとは…」
俺(いや…違う…この音は伝説とか極意とか、そんな大層なものじゃ断じてねえ…
間違いない。これは…この音は…ただのいびきだッッッ!!!)
サタン様の非常識すぎる行動…そしてこんな男に期待をしていた自分への情けなさに、俺は怒りに震える。
そんな中、サタン様が呂律の回らない小さな声でつぶやいた。
サタン「…ムニャムニャ…もうこれ以上、イチゴ味のところてんは食べれんぞ…
ムニャムニャムニャ…」
俺「起きろクソジジイーーーッッ!!
人の名前考えてる途中に気持ちよく寝てんじゃねえええええええ!!!」
我慢の限界を超えてしまい、玉座に飛び掛かろうとする。
レビ「お、落ち着いてください、まだ寝ていると決まったわけでは…」
そんな俺を漆黒のレヴィアタンが必死に制止する。
周りの騒がしさに気がついたのであろうか、サタン様がついに目を開いた。
サタン「あれ…わしのデラックスチョコレートパフェはどこにいったのだ?
…というか、ここはいったいどこだ?…」
俺「ほら見ろ、やっぱり爆睡してたんじゃねえかああああああああああ!!!」
さらに怒りが爆発した俺であったが、漆黒のレヴィアタンになだめられ、
なんとか平静を取り戻した。
俺「で…いつから寝てたんですか?」
サタン「うむ。瞑想を始めて2分、鼻からトマトジュースを吹き出す空飛ぶ巨象
に乗って、神の国を血の海にしたところまでは覚えているのだが、
それからだんだんと意識が遠のいてな…」
俺「それもう、その時点でとっくに夢の中ですよッッッ!!!
瞑想開始早々、夢の世界へ飛び立ってるじゃないですか!!!
で…考えていただけたんですか、名前は?」
サタン「え…なんの?」
全く話の見当がつかないようだ。
俺(コイツ…最初の目的を完全に忘れていやがる…)
俺の心に殺意が芽生え、それがじょじょに大きくなっていくのを感じた。