第1話
20xx年3月27日 午前4:44 俺はベッドの中で深い眠りへと落ちていた。
俺は一面が闇の世界にいた。どうやらここは夢の中のようだ。
闇の中で何者かの声がする。
その声は夢の中とは思えないほどはっきり聞こえてきた。
声質から推測すると若い女性のようだ。
???「選ばれし少年よ。汝はこれより大悪魔サタン様の忠実な配下として、
その覇道を助ける兵となるのです」
俺「この俺が……選ばれし……少年……」
???「その通りです。汝の飽くことのない悪への追求が、
大悪魔サタン様の目に留まったのです。
若き少年よ、今こそ我らとともに立ち上がるときなのですッッ」
俺「しかし、ちょっと問題が……」
???「なんの問題があるというのですッ!少年の心に満ちる悪の精神ッ、
それを今こそ解き放つ時なのですッッ!!」
俺「いや、そうじゃなくて……何か勘違いしているみたいだけど、
俺……今年で32なんですが……」
???「えッ!?(この書類間違ってんじゃん!)……そんなことは些細なことです。
選ばれし中年よ、今こそ我らとッッ!!
(年齢制限29までだけどまぁいいか……)」
俺「まぁ、いいですけど……
ところで俺がものすごい悪みたいなことを言ってましたが、
具体的にどういうところが?」
???「フフッ。数えてもキリがありますまいが、
例えば先日の某カードゲームの大会の一回戦、
小学生との対戦で上着の袖に忍ばしていたカードを、
手札に加え躊躇なく使いましたね。(結果負け)
さらにはその大会の帰りに寄ったTUT○YAで、
負けた腹いせに『ア○と雪の女王』と、
『ア○ルでイク女王様』の中身を入れ替えるという凶行に及びましたね。」
俺「いやぁ……よく見てますね……」
???「他にも高校時代に好きな娘の体育ジャージでお股乾布摩擦をしているところを
教室に戻ってきた女子生徒たちに発見され彼女らを戦慄させたり……
友達の家で友達がトイレに行っている間に、
ドラ○エのレベル99の全クリデータを闇に葬り去ったり……
その極悪非道な悪行の数々を、サタン様がお認めになられたのです」
俺「そうですか……(なんか微妙にスケールが小さくないか……まぁいいや)」
そのとき、闇の中から黒の鎧に身を包んだ、黒髪の女性が現れた。
???「わが名は漆黒のレヴィアタン。さぁ私とともにサタン様の御座す魔界の、
ダークキャッスル城へ参りましょう」
俺「はい……
(ダークキャッスル城?キャッスルと城がかぶってねえか……まぁいいや)」
そう答えると、俺の意識は途切れた。
再び意識を取り戻したとき、俺とその女性は扉の前に立っていた。
レビ「サタン様。漆黒のレヴィアタン、
新たなる我らが同志を伴い帰城致しました」
???「入れぃ」
扉を開くとそこには玉座があり、
その玉座には邪悪なるオーラを放つ大柄な男が腰掛けていた。
禍々しい漆黒の兜と甲冑に身を包んだ屈強な体。
その素顔は同じく漆黒の鉄仮面により見ることはできないが、
目の部分から伺うことのできる眼光は鋭く、
見るもの全てを凍りつかせるような威圧感があった。
???「ほう。よくきたな、新たなる我が僕よ。わしの名は魔界の王サタン。
これからは我が片腕として存分に働いてもらうので、そのつもりでな」
男は玉座の肘掛に右肘をつき、俺の様子を観察しながら言った。
サタン「ところで早速だが、おぬしの新たなる名前を考えなければならぬな」
レビ「そうでございますね。新入りには我らの仲間としてふさわしい、
禍々しくも美しい名を授けるのがしきたり。
サタン様、彼に相応しい悪魔的な名をッッ!!」
サタン「……いや、こいつのじゃなくて、お前のだ」
レビ「へ?」
サタン「いや~、さっき知り合いの悪魔が来てさ。
話してたらお前の『漆黒のレヴィアタン』っていう名前を、
気に入ったみたいでさぁ。
自分の部下にその名前を付けたいから頂戴、って言われちゃってさぁ」
レビ「で、差し上げちゃったんですか?私の名を!?」
サタン「フフッ、お前はわしの右腕だ。
そのお前の名をそう簡単に譲るわけがあるまいが」
レビ「ですよねっ!あー、よかった」
サタン「だから魔界テニス場で決闘をし、
万が一このわしが敗れるようなことがあれば好きにするがよい、
と答えたのだ」
レビ「え……それで試合はどうなったのですか?
悪魔界の頂点に君臨するサタン様のことです、当然勝たれたのですよね!?」
サタン「それがな……
0-6、0-6,0-6のセットカウント0-3で、
惜しくも敗れてしまってな」
元レビ「ブブッ!?フルボッコじゃないですか!!全然惜しくないですよ!
でも全知全能なサタン様が負けるはずがないですよね?一体何が!?」
サタン「いや、それがな。あいつ、サーブを上から打ったりするんだよ……
わしは上からじゃラケットに上手く当てれないから、
下からなのにずるいよなぁ……
それに『ダンクスマーッシュ!』とか言いながら、
ジャンプしてスマッシュまで打ってくるしよぉ……
当たったらやべえだろがッ!死んじゃうだろがッ!!
てか、玉にスピンかけてくるのとか反則だろうがッッ!!!」
元レビ「そ、そうですね……(もしかしてサタン様……運動音痴なんじゃ……)」
サタン「それにな、かつて漆黒のレヴィアタンと呼ばれた者よ。
魔界を束ねる悪魔の王に、テニスをする能力など、果たして必要と思うか?」
元レビ「……必要ありません
(だったら人の名前を賭けて試合なんかしないでください!)」
サタン「それに実は、お前の名前にも少々飽きがきていてな。
お前に相応しい名を密かに考えておったのだ。」
元レビ「サタン様がこの私のために新たなる名を……
元漆黒のレヴィアタン、光栄の極みでございますッ!」
サタン「うむ……今からお前の新しき名は……
『漆黒のベジタリアン』だッッッ!!!」
元レビ「ブーッ!……すみません、あの……
その名前だと自己紹介のときに、
ちょっとなんか恥ずかしい感じになっちゃいそうなので、
できれば他のに変えていただけませんでしょうか?」
サタン「ほう。このわしが直々に命名した名が気に入らぬと申すか。
まぁよかろう。ならば貴様の名は……『雑穀のベジタリアン』だッッ!!!」
元レビ「(なんかさらに健康的になったー!)
……いや、ですから悪魔が菜食主義者では様にならないんじゃないかなぁ、
ってことですッ!
ほら、人間界のイメージ的には、善良な市民の踊り食いとか、
純潔な処女のごった煮とかも食べれないと……」
サタン「こやつ、言いおるわ。
それならば貴様の名は……『雑食のベジタリアン』だッッ!!!」
元レビ「(もはや菜食主義なのか、
そうじゃないのかすらもわからなくなったー!)
……ですからベジタリアンは無しの方向でッッ!!」
サタン「うむ……つまり『ベジタリアン』消しの、『雑食』残しでよいのだな?」
元レビ「雑食も消去でお願いしますッッッ!!!」
サタン「ククク……ここまで申されてはこのサタン、
とっておきの名を出すしかないようだな。
お前の最後の名は……『深刻なオバタリアン』だッッッッッ!!!!!」
元レビ「ええーッ!!!
なんですかその名乗ること自体が斬首刑みたいな恥ずかしい名前は!!!
私まだ2300歳ですよッ!?(人間でいえば約23歳)
しかも『深刻な』までつけちゃったら、
周りの悪魔もなんかいたたまれない感じに
なっちゃうじゃないですかッッ!!!」
サタン「もーッ!!!ピーチクピーチク、文句ばっかりほざきおって!
……じゃあもういいよ。お前の名前は今から『地下アイドルのマリアタン』だッ!!
ざまーみろ!!!」
元レビ「なんですかその、悪魔成分が0,1%も入ってないやっつけな名前は!?
頼みますからマトモな名前を真面目に考えてくださいよッッ!!」
サタン「じゃあわかったよ。
俺じゃなくてそこに居る『小太り中年クソ野郎』に、
決めてもらったらいいじゃねえかよ、ボケナス!!」
激高したサタン様が俺のほうを指差しながら言う。
元レビ「そうですね、サタン様なんかよりも、
この『残念な小太り中年クソ野郎』のほうが、
きっといい名前を考えてくれるに決まってます!!」
元漆黒のレヴィアタンが期待を込めた眼差しで俺のほうを見る。
残念な小太り中年クソ野郎「うーん……それじゃあ、あなたの新しい名前は……
『大天使のミカエル』で……」
サタン&元レビ「いや、それはまずいだろ……悪魔的な意味で……」
城内にしばしの沈黙がおとずれる。
しかしその沈黙を切り裂くように、突然携帯の着信メロディーが鳴り響いた。
携帯『殺りたかった♪殺りたかった♪殺りたかった♪death♪♪』
サタン「すまん、わしだ」
そう言うとサタン様は甲冑の胸ポケットからガラケーを取り出した。
サタン「はいもしもし、わしだけど。……あ、ルシちゃんどうしたの?……
え、今日のテニス?……う、うん。と、とても楽しかったけど……
え、なに?もうあの名前は要らなくなった?
……よく考えてみると中二病っぽくってダサい??
……あ、はいはい、了解わかった。……じゃあまたね、バイバイ」
通話が終わるとサタン様はひとつ咳払いをし、その鋭い眼光を俺たちへ向けた。
サタン「やはりな。部下の名をころころと変えるような愚行は、
どうもこのわしに合わん。漆黒のレヴィアタンよ、
これからも存分にその名をこの魔界に轟かせるがよい」
俺&漆黒のレヴィアタン(お前が言うな!!)