最後の晩餐まで
とりあえず明るく、楽しく!
暗い話は、書くのが苦手なのでご容赦を。
「どうも」
「あ、ども」
目の前の少女が声をかけてきた。反射的に俺は、返事をした。ぶっきらぼうな返事だったからか、それとも元からこうなのか。少女は眉ひとつ動かさずに、そこに佇んでいた。じっと見つめる俺に対して何か言い返すでもなく、かと言って怪訝な顔をするわけでもない。ただただ、こちらを観察するように、じっと見つめていた。
これが、俺、東城アユムと、彼女、山城アリスの出会いだった。
ここ、終末期センターは魂の還る場所、つまり、輪廻転生の輪の外れに位置する。外れといっても、中身までハズレというわけではない。世間といっていいのかどうかは分からないが、一般的な杓子で測るならば、寧ろ大当たりと言っていい場所だ。輪廻転生の輪を超えるような、所謂神様とか仏様になれるような者だけが連れてこられるのだ。
最初、ここを預かる天使に聞いたときは正直、意味が分からなかった。自分がいつの間にか死んでいて、しかも、通常のルートから外れた神様予備軍だと聞いたときは、頭がおかしくなりそうだった。
「貴方の生前の行いは全く関係ありません。大いなる流れによって、ただ、そうなっただけです。ですので、気を楽に決めてください」
天使とかいうやつに事前資料と家を与えられて、そして、本当に簡単な説明を聞いた。資料と説明曰く、俺はこれから自分と同じく神の候補者とかいう奴に会って、互いに話をしながら、どんな神になるか決めるようだ。天使が言うには、一人で決めると、大抵ろくなもんにならないらしい。自慢じゃないけど俺はそんなに学はない。そんなに学はないが、まぁ、天使の言いたいことも分かる気がした。確かに一人で決めると、それこそまさに失敗しそうだ。考えるだけで、全知全能から遠い神になりそうだ。そんなの、俺だって分かる。そうすると、神様のクオリティにゃ気を使わなきゃと思えてくる。
で、そんなことを考えているうちに俺は、いつの間にか天使の言われるがままここへ連れてこられ、アリスに会ったわけだ。
「よ、よう。今日もいい天気だなー」
「ここには天気の概念はありませんが?」
「例えだよ、例え。ほら、下を見てみなよ。いい天気じゃんか」
「貴方はいつも、バイエルン地方の天気を見ているのですか?」
「いや、そういうわけじゃ」
「そうですか」
こ、怖い。怖すぎる。アリスの理路整然とした言葉と澄んだ声は、俺の言葉と声を打ち消すには十分だった。ぐうの音も出ないとは、まさにこう言うことかと、まじまじと突きつけられた。これが男ならぶん殴るか凄んで見せるところだが、アリスの前だとそれは野暮ってもんだ。それに、なまじっか筋が通っているからか、妙に反論できない。
「それで東城さんは、どのような神様になるか、決めたのですか?」
「へ? い、いやぁ、俺はまだまだだよ」
「そうなのですか」
アリスは長いまつげと大きく綺麗な目をぱちくりしながら、こちらを眺めた。大きな瞳が心の奥底まで覗き込んできそうな勢いすらある。
「逆にさ、アリスから見て、俺はどんな神様が似合っていると思う?」
「どんな、ですか?」
「そうそう、ちょっと意見を聞きたいわけよ」
「そうですね、祭神とかどうでしょう?」
「さ、さいしん?」
「祭りの神様です。東城さんの性格や気質を見るに、悪くないと思いますが」
「祭神ねぇ」
祭りの神というのを聞いて、悪くないなと思った。俺ってこんな性格だし、明るい感じの神様なら悪くないなと思った。喧嘩祭りも音楽祭も、浅草サンバカーニバルもそうだっけ? ともあれ、祭りってのは似合っていそうだ。
「東城さん」
「お、なんだ?」
ある日、アリスが急に改まった声で尋ねてきた。俺は書きかけの書類を一旦横に置き、彼女の方を向いた。
「それ、転生後の申告書ですね?」
「あぁ、この前はありがとうな。おかげでどんな神様になろうか決められたよ」
「やっぱり、東城さんは祭神ですか」
「うん、アリスも言ってたけど、やっぱりこれが一番しっくりくるかなぁってさ」
俺は言葉に合わせるように、横にある申告書をチラッと見た。びっくりする話だが、転生の際は、転生後のイメージを固めるために、紙に自分の想いをまとめなければいけないようだった。まとめることで、今一度想いを固め、転生後とギャップを無くすようにするためらしい。昔、転生したはいいけど、イメージとズレがあって、世界を焼き尽くした神様もいたらしく、このようなことを始めたと聞いた。仮にも神様になろうって奴がそりゃ駄目だろうと思ったけど、それは野暮ってもんだと思い、流した。それじゃ、神様じゃなくて紙サマじゃん、と。考え抜いてそれって、ペラッペラ過ぎないか、と。
「ところで、アリスは決まったのか? やっぱ、舞踊か音楽のどちらかで迷ってる?」
「私、どうしましょうか?」
「どうしましょうかって、まだってこと?」
「はい、申し訳ないんですけど、どちらも……」
「しっくりこない?」
「はい、そうなんです。しっくりこないのです。踊りも音楽も好きなんですけど、神様になるほど熱量があるかと言われると、なんでしょう? 悩んでしまいます」
「やる気ってことかね。でも、俺だってそこまで、ましてや神様になるほどあるかって言われるとなぁ」
「でしょう? 資料にも書いてありましたけど、それ以前に、神様への冒涜な気がします!」
「冒涜ねぇ」
「気にし過ぎでしょうか?」
「これって大事な話だからさ、気にし過ぎってことはないと思うぜ?」
「そうですよね」
「でもさ、同じくらい気にする必要もないと思う」
「それはいいのでしょうか?」
「確かにさ、好きだったり熱意があった方がって気持ちもわかるけど、同じくらい『そんなに好きじゃないよ』って俯瞰したり達観した方が、よく見えることもあるんじゃないかな」
「なるほど」
「それに好きだけだと、何か嫌なことがあった時に、投げ出しちゃうかもしれないぜ? まぁ、これは、生きてたころのバイト経験の賜物だけどな」
「はい、分かります!」
「ともあれ、ゆっくり決めていこうぜ? まだまだ時間はあるんだし」
「そうですね、ありがとうございます」
こうして俺たちは、自分たちの神様に対するイメージを固める作業に入りだした。
「ねぇ、東城さん?」
「ん、どうした?」
「私、愛の神様っていうのも悪くないなって思えるようになりました」
「え、何で?」
「最初はちょっとって思っていたけれど、気持ちが変わるってこともあるでしょう?」
「あ? あぁ。つまり、どういうこと?」
「つまり、そういうことです。最初はぶっきらぼうに見えても、話していくうちに、立ち振る舞いを見るうちに、気持ちが変わることってあるじゃないですか? そういうのを応援するっていうのもいいかなと思って。私みたいに」
「ん、あぁ。よく分からないけどわかったよ」
「東城さんには難しすぎましたかね。まぁ、転生するまで二人で一緒に楽しくやりましょうね! それで、最後の晩餐は悲しいけど嬉しいディナーにしましょうね」
アリスの言うことは難しい。すっと胸に入って分かるときもあれば、今みたいにうまく落ちないときもある。今のはよく分からなかったが、なぜか不思議と心にじんわり温かいものがしみ込んだ気がした。
「あぁ。お互いいいものにしようぜ。それで、最後は美味しいディナーといこう!」
俺はいつもの調子でアリスに答えた。いつもならぱちくりと大きな瞳でこちらを見るだけの彼女が、この日は溢れそうなぐらい明るい顔で、にっこりと笑ってくれた。
もりやす たかと申します。
よろしくお願いいたします。




