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85.平凡なる超えし者、宝物庫を破壊する…… 後編





 第五魔将軍ともだちに会わせる顔がなくなってしまったので、先に宝物庫へ行くよう促す。


「……」


「早く行けよ」


「……フフッ」


「早く行きなさいよっ」


 絶対に私の反応を面白がっている第五魔将軍を中に追い立て、やれやれと息を吐く。


 はー……妖精かー。メルヘンかー。


 知らない方がいいことってあるんだなー。


 今後どんな顔して「偽物の不死(アムリタ・フェイク)」使えばいいんだよ。どうすんだよ。まったく。


 …………はぁ。


 よし、だいぶ落ち着いてきた。

 羞恥に焦がした顔も、なんとか熱くなくなってきた。


 うーん、羞恥かー。

 ここまで強烈なのは久しぶりだったわー。本当にひっさしぶりの感情だったわー。

 大抵のことは、引くか笑って済ませられる自信があったのに無理だったわー。これが本物の羞恥心かー。羞恥だわー。


「おう鼠、来ておったか」


 曇り空を見上げたり濁った風を意識したり必死で感情を抑えている最中、災の悪坊が戻ってきた。

 確か狩りに行っていたんだっけ。


 ……私の妖精を見てない奴だわー。明らかに死んでる人間じゃない奴だけど安心できるわー。今生暖かい目で見られたら羞恥心がぶり返しちゃうよ。


「宝物庫開いたよ」


「何、真か!?」


 あっ。


「ちょっと待って、優しく丁寧に」


「砕ィィッッ!!」


  べきっ


 ……やりやがった。純金のドアを殴り倒しやがった。セイーじゃねえわ。


 保存の魔法を無理やり壊したのと同時に、連動していたドアの魔法鍵も無効化されていたと思う。第五魔将軍は霧になって、私が空けた穴から侵入したけどね。


 つまり開いてるドアにパンチ食らわせたわけだ。この骨鬼は。


「おお、本当だ! 開いたではないか!」


「開いたんじゃなくて壊したんだよ」


 あーあー留め金ぶっ飛んでるし、これだけでも充分値打ちがある金のドアもひしゃげてるし。どんな怪力で殴ってるんだ。普通に開いたっつーの。


 哀れなことになってしまったドアを嘆く私など気にもせず、というか気づきもせず、災の悪坊はずかずかと宝物庫へと侵入した。豪胆な奴だ。


「ヘーヴァル! 拙者が使えそうな刀はあるか!」


 と、そんなことを言いながら。


「33の神の首を跳ねた斬首刀ならあるぞ。神の血を浴びた一品だ、神格にはよく効くだろう」


「おう、良いな! その手の曰く付き(・・・・)なら拙者の力にも耐えられよう!」


 …………楽しそうだなぁ。混ざりたいなぁ。


 私は今一度大きく深呼吸して心を鎮め、三人の後を追って宝物庫に足を踏み入れた。





 上から覗いた限りでは宝の山だったが、こうして近くでじっくり見ると、とにかく宝の量が尋常じゃなかった。

 この世界なら、十代くらいは豪遊しても使いきれないのではなかろうか。


 見渡す限りの宝の山に、今、私は囲まれている。

 ……正直、ここまで来るとちょっと現実味がないなぁ。ピンと来ないというか。諭吉先生一枚渡された方が実感は湧きそうだ。


 もはや袋や箱に納めておくという発想も面倒になったのか、乱雑に突っ込まれていたのだろう金貨の山がいくつもある。

 実は床の模様かってくらい床に散らばっていたりもする。

 お金を踏みながら歩くことに抵抗はあるが、どうしても足の踏み場がないので、仕方なく踏んでいる。


 一枚拾って見てみると、模様や刻印がない。

 この手の物は発行した国の象徴や長の顔などが刻まれるものだが、磨り減っていると言う感じもなく、ただただ平坦だ。そしてコインとしては歪でもある。

 千年前……ほとんど文献も残っていない時代の金貨だ。さすがにそれを証明できないかもなぁ。骨董価値ではなく金そのものの価値で取引されそうだ。


 宝石やら装飾品も粗雑にばら撒かれている。

 金貨の山に埋もれていたりもする。

 もうなんだか一々お宝お宝言うのがバカバカしくなるくらい、見事な宝物庫だった。これが当時の魔王の力と権威の結果なのだろう。


 ただ、戦時中だったこともあるおかげで、金品に混じって武具の類もたくさんある。


 一目で只事じゃないとわかる宝剣。

 異様な死の臭いを放つ魔剣魔杖魔槍は数知れず。

 装飾品も、強力な魔法が掛かっていたり、見ているだけで気分が悪くなるような呪いのアイテムも転がっている。

 あの、見た目はなんの変哲もない石とかヤバイね。この中ではあれが一番妙な力を放っている。いったいなんなんだろう。


 鎧なんかはさすがに乱雑に投げ出さず、専用の台座に飾ってあるけど……うわ、中身と目が合っちゃったよ。

 バケツ状の兜に空いた十字の覗き穴の奥に、得体の知れない何かがいる。それと目が合っちゃった。たぶん実体はない奴だ。意識体というか精神体というかね。


「こんちわ」


 目が合っちゃったので、こんこん、と肩当てを叩きながら挨拶すると――うわ、笑ったっ。兜の下でニヤッてしたな。こう、ねっとり絡みつくような感じで。


 生き物でもないのに喜怒哀楽がある鎧か。不気味は不気味だけど面白いな。


「いかがです? 魔王軍自慢の宝は」


 不気味でなんか嫌な感じだけど、興味が湧いたので洗って虫干しでもしてやろうかと考えていると、傍にやってきた執事くんが言った。


「すごいね」


 率直に、そう思う。


 しつこいようだけど、千年の時を経てきたとは思えない宝の山に囲まれているこの現状。

 ただただすごいとしか言いようがない。想像していたより桁が違うというか。


「さっきこいつに襲われてなかった?」


「悪ふざけが好きなんですよ。これでも一応、宝物庫の番人でもありますし」


 へえ、番人なのか。

 装飾も見事な鎧だから、宝の一つだと思ったんだけど。いや、実際それでも合ってるのかな。宝の鎧を番人としただけで。


「ところで報酬の話ですが」


 と、小さな声で囁いてくる。


「まだ将軍に話してないの?」


「ええ、まあ……なので何点か勝手にくすねて行ってください」


 おい、なかなか悪いこと言い出したぞこいつ。


「断ればいいじゃん。――将軍、何個か貰っていい?」


 奥の方で、災の悪坊と武器を選んでいる第五魔将軍が振り返り、


「駄目だろう。金貨一枚でも主の物だぞ。勝手に持ち出すなど言語道断だ」


 おう、さすが忠実なる僕。

 というかこれが普通の反応だと思うよ。ほんとに。だって魔王の宝物庫って最初からわかっていることだしね。

 仮に宝物庫が壊れていて宝が無造作に埋まっているだけ、という状態なら、執事くんが当初言っていた「誰のものでもない宝」と言い張れたかもしれないけどさ。

 なんせ丸のまま見つかったからね。


 こうなってしまえば、もう素直に言うのが早いだろう。


「私、実は何点か貰うのを条件に来てるんだよね」


「何だと」


 睨まれた執事くんが小さくなった。


「まあまあ。私から言い出したってのもあるし、あんまり責めないでやってよ。別に高望みもしないし、ダメって言われた物は持っていかないからさ。私の仕事を完了させるためになんかちょうだい」


 第五魔将軍は私を見、縮こまっている執事くんを見、堅く目を閉じ……搾り出すような声を漏らした。


「…………仕方ない。家来の不手際の責は我が負い、主に叱られることにしよう。好きな物を選ぶがいい」


 うわ、見るからに断腸の思いってやつだね。魔王には叱らないよう私から言っておこう。





 さて何を選ぶかな、クローナに何を貢ごうかな、と宝を眺めていると。


「鼠、これを主に届けてくれ」


 ん?


 災の悪坊が、妙な石を差し出してきた。……ってこれ、一番ヤバイと思った石じゃん。近くで見ても本当になんの変哲もないな。ただ妙な力があるってだけで。


「これはなんなの?」


 ソフトボールくらいの大きさの、その辺に落ちているような石にしか見えないが。見た目だけは。


「こいつは『理の石』と言ってな、とある秘術によって生まれる代物よ」


 ことわりの、いし。……うーん、聞いたことないなぁ。


「別名を『宿り石』と言う。拙者ら神や魔族が死んだ時、一時的に避難する魂の拠り所となるのよ」


 あ、魂の器のことか。この世界では「理の石」と呼ばれていると。

 そうそう、私みたいな普通の人間と違って、神クラスだと普通の器では耐えられないからね。それ専用のアイテムってわけだ。


「ってことは、今なんか入ってる感じ?」


 この異様な力は、何者かが入り込んでいるせいではないか。

 魂自体は見えないけど、魂が見えなくなる的な特性もあるかもしれないし。


「うむ。どうやら主の力の一部が、これに宿っておるみたいでの」


 え? ……あ、そうなんだ。


 そういや魔王の現状って、力が散ったとかなんとかって話だもんね。

 私に探せとも言っていたし。

 断ったけど。

 きっぱり断ったけど。


「経緯はわからぬが、ここにあるのは見ての通りだ」


 と、災の悪坊の隣に第五魔将軍が並ぶ。


「我も悪坊も、主の傍には行けぬ。頼まれてくれるか?」


「執事くんは?」


「石の力が強すぎるのだ。生半可な者ではきっと悪影響を受ける。最悪発狂して死ぬ」


 ああ……そうだね。実際はどうなるかはさておき、少なくとも正常ではいられなくなりそうだね。


「じゃ、預かるね」


 ひょいと持ち上げる。お、じわじわ力が侵食してくるぞ。でもざんねーん、こんなこともあろうかと肉体の骨部分は聖樹に変えときましたー。あ、聖樹に触れてビクッとして引っ込んだ。これも意志があるのか本能のみで動いているのか。


 これ自体が怪しい力を発しているが、瘴気の類はまとっていない。直接触らなければ周囲に被害が出ることもないだろう。

 とっとと魔王に渡して処理してもらおう。





 というわけで、無事私の仕事は完了したので、魔法学校に戻ってきた。


 ちなみに、私の報酬である宝は適当に選んだ。

 どれを選んでも一財産になりそうだと思ったら、逆にどれを選んでも変わらない気がしてきたから。

 お金も宝も持っていたって仕方ない私からすれば、使い道があるとすればクローナに貢ぐだけだしね。


「ただいまー。お土産持って来たよー」


 魔王城跡から魔法学校へ転送する際、転送ポイントは図書館の裏になる。

 生徒が来ることはほぼないので目立たず、だいたい図書館に詰めている魔王にすぐ会える場所として選ばれているようだ。 


 裏手に転送された私は、その利便性に沿うようにして、図書館へ足を進めた。ちなみに朝から数えて本日二度目の出頭である。


 珍しくすでに本を閉じていた魔王は、小さく頷いた。


「戻って来た時から気づいていた。私の力を持っているな?」


 あ、やっぱ元は自分の物だから、わかるみたいだね。


「宝物庫にあった『理の石』ってのに入ってたみたい。はいこれ」


 魔法学校の制服であるブレザーのポケットから石を出し、差し出す――と、粉々に砕けて砂になった。


「――確かに受け取った」


 あ、そう。


 呆気なく力の譲渡は行われたようだ。……さっき石だった砂もさらさらと指の間からこぼれ、そして消えていく。

 器としての役割を終えたせいだろう、痕跡も残らず消滅してしまった。


「鼠、結果的にだが私の力を探すという仕事もこなしたな。此度の功績は大きい。望みを言え、褒美を出す」


 いやあ、力を探した憶えはないし、持ってきたのは第五魔将軍たちに頼まれたからだし。

 褒美って言われてもなぁ……あ、あるわ。あったわ。


「そのうち第五魔将軍から謝罪があると思うけど、許してあげてくれない?」


「何かしたのか?」


「うん。簡単に言うと、魔王の財産を独断で私に少しくれた」


 ほれ、と、同じくポケットに入れてきた宝石数点と、金で作られた花……金色の造花的なものを見せた。


「独断か。なるほど、奴が気にしそうなことだ」


「あれ? そういうの気にしないタイプ?」


「相手に寄る。私欲で使い込むような輩を許す気はないが、ヘーヴァルが使ったというのであれば必要な出費だったと判断する。

 奴が私の不利や、不利益に繋がることを率先してするなどありえない」


 あらま。意外と上下関係の信頼が厚いんだね。第五魔将軍の一方通行かと思ってたんだけど。


「それで? 誘いには乗ったのか? その様子だと乗ってはいないか」


「ん?」


「部下に誘われなかったのか?」


 ……おっと。いきなり来たな。


「あのヘーヴァルが、独断で私の財産を使ったというのであれば、貴様は相当気に入られているということだ。ならば誘われない理由がないだろう」


 ああ、逆説的な感じで。


「断ったよ。だって面倒そうじゃん。これからお城を作り直したりするんでしょ? 肉体労働はもういいや」


 それに、私が良くてもネズミが良くないかもしれないし。

 私は近い内にいなくなるんだから、未来を左右するような大きな決断はしちゃいけない。


「ヘーヴァルは貴様を襲わなかったか? それとも返り討ちにしたか?」


 なんだ。

 魔王、意外と配下のことちゃんと見てるんだな。どんな奴なのか、どんな性格なのか、何ができるのか、とか。ちゃんとわかっているみたいだ。


 見た感じ、冷たそうな奴にしか見えないから、ギャップがあるね。ギャップ萌えってやつだ。


「襲わなかったよ。迷ったとは言ってたけど。魔王のために今の時代に慣れたいって言ってたよ」


「そうか。憎悪に焼かれ憎しみで動いていたあの頃のヘーヴァルとは、やはり違うようだな」


 封印されていた頃の鎮魂祭とかが効いているってわけだ。……私もできるだけ祭事には協力しよっと。恵方巻きとか大事にしよっと。


「まあとにかく、これで私の仕事は終わりってことで。お疲れさん」


 まだ昼にもなっていないが、早くクローナの部屋に戻って寝ることにしよう。

 ここ数日は毎日働いていたからね。

 私の自堕落なぐーたらタイムが再び始まるのだ。


「わかった。世話になったな。困ったことがあったらまた来るがいい」


 呼び止められるかと思ったが、すんなり行かせてくれた。前の「あんまり関わるな」って約束が効いているのかな。


 まあいいや。


 とにかく帰って休もう。惰眠をむさぼろう。身体が眠りを欲している。





 散り散りになったという魔王の力が、一つ戻った。


 この事実を、もう少し考えるべきだったのかもしれない。





 ――大変革まで、あと1日。






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