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75.平凡なる超えし者、第五魔将軍と会う……





 モンスターの集団の目前。

 あと50メートルくらいを切ったところで、違和感を覚えた。


「あり?」


 足が重い。

 気のせいだとか地面がアレだとか何かしらの攻撃だとかではなく、明確に重い。


 なんだこりゃ?


 一歩を踏む足はどんどん重くなり、ついに足が動かなくなってしまった。


 鼓動が、早くなっている。


 …………


 あれ? もしかしてこれ、あれか?


「怖気づいてる?」


 いやまさか。

 この程度の脅威で怖がっていられるような平和な人生を送ってきていない。

 このくらいは朝飯前に済ませて然るべきだ。


 だが、この、頭でわかっていても身体が動かない感覚は憶えがある。

 恐怖に飲まれているあの状態に良く似ている。


 ……うーん? 私は全然怖くないんだけど……


 …………


 あ、そうか。


「君か」


 胸に手を当て、自分に語りかける。


 正確には、この身体に(・・・・・)


 そういや初めてだもんね。

 明確な死臭と殺気と敵意を併せて一緒に感じるのは。


 おまけにあの数だもんね。

 生まれたての生き物には、なかなかハードルが高い状況かもしれないね。

 私だって色々始めての時は、色々怖かったしね。あったんですよ。私にもああいうのにビビリーだった時も。


「大丈夫だよ」


 私は語っておく。


「あんなの数百万匹いても、君の方が余裕で強いから。臆病なのは決して悪いことじゃないけど、自分の力を過小評価していると、できることもできなくなっちゃうよ」


 程よい緊張感は勝負事には必要だし、恐れを知らない奴なんてただのバカだからね。

 怖いものがある、苦手なものがあるって、何も間違ってはいないと思う。本当に。


 ただ、どんなに怖くても苦手でも、立ち向かわないといけない時があるってことだけは、忘れないでほしいけどね。

 その手の障害は、逃げたあとに必ず後悔するから。


「まあ、決して勝負せず逃げ回るスタイルも嫌いじゃないけどね」


 勝負しない美学って、あると思う。

 絶対に勝負しない、絶対に「相手に合わせない自分の戦い方をする」とかね。突き詰めるとそれもまた強さだと思う。


 いろんな強さと弱さがあるから、一概にどうこうも言えないよね。


「せっかく今は私がいるんだから、今の内に色々経験しとくといいよ。……行くけど、大丈夫?」


 足は、動いてくれた。


 なんとなく感じることはあったけど、ここまで強い意志を感じたのは初めてだったな。

 このネズミも成長しているってことなんだろうね。


 一応強く拒否とか拒絶とかはされていないから、私が身体を借りていることに関しては問題ないみたいだ。

 というか、保護者くらいには思っているのだろうか。


 何はともあれ、私という保護者がいる内に、できるだけいろんなものを見聞きし、経験をして、成長の糧にしてもらえればいいよね。

 

 ……糧にしてもらえればいいんだけど、でも、なんか、私はあんまりいい保護者はやれてない気はするなぁ。

 基本何もなければだらだらしてるだけだしなぁ。


 残り期間、せめて少しは生活を改めてみようかな。


 ……いや、だるいからそれは無理だわ。クローナのペットとして何不自由なく暮らしていたいよ。





 改めて歩み、アンデッドがひしめく死の香り漂う森へと到達した。


「「……」」


 モンスター連中からは、敵意と殺気をビシバシ向けられているが、襲い掛かってくる気配はない。

 聖樹の棍棒が魔除けになっているのか、それとも「待機命令」を遂行しているだけなのか。


 この世界のモンスターっていうのも不思議なんだよなぁ。


 明らかに生物なのに、生物にしか見えないのに、生物として考えると不自然な点が多いんだよね。


 殺したら消える。

 脈絡の無いアイテムを落とすことがある。

 自然発生する。


 捕食はしないけど生き物は襲う。でもモンスター同士でやりあうことはない。縄張り意識もなく、他のモンスターと共闘することもある。


 なんというか、己の意志で動いているんじゃなくて、高度なAIが搭載された不思議な存在って考えた方が近い、そんな生命体なのかもしれない。


 で、だ。


 これは今回のことで気づいたことだけど、ある程度の力を持つ者ならモンスターを従えることができるみたいだ。

 あるいは、自分の意志で発生させることができるっぽいね。

 じゃなければこんなにアンデッド系ばっか集めるのは不可能だろう。


 近くにいるアンデッドを掻き集めたってこんなにはいないだろうから、この森で発生したと考えるのが自然だろう。


 ……あれ?


『百花鼠だー』


『ほんとだー』


 アンデッド連中の只中を奥へ奥へ向かう最中、何者かの思念を拾ってしまった。


 ふと見れば、小さな球根に足が生えた白骨の枯木――ボーンプラントというアンデッドが二匹、わさわさ揺れていた。


 うん、見た感じはただの枯れた白木って感じだ。

 大きいのは普通に大木くらいあるらしいけど、あれは高さ1メートル程度の小さい奴だ。


「え? モンスター……じゃ、ないの?」


 モンスターは、意志の疎通はできない。でもボーンプラントは確かに意志を持ち、思念を飛ばして仲間同士で会話している。


 本で読んだ分類では、完全にモンスター扱いだったんだけどな。


『ちがうよー』


『二種類いるんだよー』


 え、二種類? 初耳だわ。


『魔物のぼくらもいるしー』


『生物の骨を宿にして生きる、ぼくらみたいなのもいるんだよー』


 更に詳しく聞けば、奴らは動物だのなんだのの骨を家とし、根を張る植物の一種なんだそうだ。

 マジで初耳である。

 寄生虫ならぬ寄生樹ってやつか。


 あと会話が成立しているのは、ネズミの「植物を司る者」としての力が大きいみたいだ。

 元々奴らに多種族と意志を交わす力はないらしい。


「こんなところで何やってるの?」


『何もしてないよー』


『元々この森に住んでてこの有様になって下手に動けなくなったんだよー』


 あ、巻き込まれた系の方々。いわゆる先住民でしたか。


「一緒に来る? どこかまで運ぶくらいならしてあげるけど」


『お気遣いどうもー』


『でもまあ一年二年動かないくらいいつものことだし平気だよー』


 あ、そうですか。


 ――話ができる植物もいる、か。些細なことかもしれないが、割と大きな収穫になりそうな気がする。





 奥の方奥の方、強い力を感じる方へとひたすら歩くと、


「……」


 私の行く手を阻むように、顔半分に火傷のような跡がある執事服の男が立っていた。


 おう、なかなか痛々しい傷跡だけど、それでもイケメンだな。歳は二十歳前後くらいだろうけど、あくまでも見た目は若いってだけだろう。


「君、さっきの子?」


 無表情を装っているけど、赤い瞳に怒りの感情が満ちている。


「やってくれましたね、獣風情が」


 あ、やっぱりさっきの影くんか。


「別に悪気はないよ。ほれ」


「――はっ!?」


 瞬時に間合いを詰め、執事くんの顔に触れた。


 触れられてようやく接近されたことに気づいた執事くんは、慌てて飛び上がって木の枝に退避した。ほう、悪くない動きだ。


「悪かったよ。やりすぎた。ごめんね」


 見上げて言う私に、見下ろす執事くんはかなり動揺しているのか、少なくとも瞳から怒りの感情は消えていた。

 あと、私が触れた火傷のような傷跡も、消えていた。


「治しといたからさ。ほら、仲直りしようよ」


 たぶんさっき私がやった奴だからね。

 いわゆる聖痕って奴だから、吸血鬼たる己の力では治せなかったんだろう。


 でもご安心ください、今やすっかり卵のようなつるつるお肌のぴちぴちイケメンですよ。


「は……え、な、治った……!?」


 顔を触り、手鏡を出して確認している。うん、すっかり治ってるよ。よかったね。


 ちなみに今やったのは、まず残った聖なる力を聖樹の棍棒に吸収し、次に闇属性のある薬草の薬効成分を抽出してさらっと付けただけだ。そのあとは本人の自然治癒力だね。


「……いや! この程度のことで許しを乞えるとでも思っているのですか!?」


 あ、こいつやっぱめんどくさいタイプだな。さらっと流してくれればいいのに。ごねるなよ。


「そう言われてもなぁ。もういいじゃん。楽に行こうよ」


「ふざけるのはその凡百な顔だけにしなさい!」


 お、凡百だと? ……ブスって言われなくてよかったわー。平凡な顔であることくらい知っとるわ。


「じゃあ、続きやる?」


 聖なる棍棒を目の前で振ってやると、執事くんはオッホンと大きな咳払いをした。今すんげー動揺したね? 隠せよ。


「私は高貴なる吸血鬼です。野蛮な行為は望みません」


「それはよかった。私もやりたくないし。とりあえず降りてきて――お?」


 もう少し先にあったはずの強い魔力が、こちらへ向かってくる。





「――ジィル。何を遊んでいる」


 ゆらりと白い霧がやってきたと思えば、そいつは白いフルアーマーの騎士になっていた。

 だが、実体はない。

 よく見れば向こう側が透けて見えるから。完全にゴースト系だな。


 首は身体の上にあるが、間違いないだろう。


 こいつが第五魔将軍ヘーヴァル。デュラハンの暗黒騎士だ。


「――しょ、将軍!」


 執事くんは木から下りると、慌ててヘーヴァルに言いつくろう。


「こ、この無礼者が将軍にお目通り願いたいと! どうしてもと言う熱意に負けてしまい、せめて近くまではと……」


 あ、嘘ついてるー。一発かまされてここまで侵入されたんだろー。


 ……てゆーかたぶんバレてるぞー。


「我は」


 ヘーヴァルが右手を上げた。


 白い霧が形を成し、巨大な剣となった。


「無能でおしゃべりな部下はいらん」


 その巨大な剣は、呆然としている執事くんに振り下ろされた。





「やはり止めたか」


 ……チッ。やっぱ探られただけだったか。


 剣を振り下ろされたタイミングで、私は聖なる棍棒をブン投げていた。

 剣に当たる軌道で。


 しかし当たらなかった。がさっとどこかの草か何かを揺らしただけだ。


 躊躇無く振り下ろしていれば当たっていたはずだが、ヘーヴァルは寸前で剣を止めていた。だから空振りしたのだ。


 まあ、いいや。


 最初から罠っぽい気はしてたけど、万一ってことがあるからね。間違った選択はしてないつもりだよ。


「貴殿は魔の者を軽んじないのだな。ならば話を聞こう」


 ……なんつーか、主導権握られたって感じだわー。ファーストコンタクトは私のやや負けかな。






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