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71.平凡なる超えし者、兄の闘技大会出場の理由を悟る……




「あとはそこの二人に聞け」


 話は終わったとばかりに、魔王は本を広げ出した。うーん……かっこいいな。心情的にはあんまり気に入らないけど、見た目は完全にイケメン紳士だ。イケメン度すごいな。ゴイスーだな。


 熊獣人と赤毛の少女に促され、図書館を出た。


 出入り口で向かい合う。

 今授業中だし、この時間なら生徒は滅多に来ないだろう。人目を忍ぶ場所を選んで移動するより、ささっと話してしまった方が早かろう。


 何より、用件が用件だ。

 問題が動き出してから止めるのは大変だろうから、一刻一秒を惜しむ案件だと言える。リアルに人死にとか出ちゃうから急がないとまずいよね。


「アルカ殺していいわよ」


 あ?


「いきなり何?」


 本当にいきなり物騒なことを言い出した赤毛の少女は、不満たらたらな顔である。


「あの子、主には相応しくないと思うのよね。光持ちだし。まあ確かに、魔族が人間の男や女を娶ったり妾にしたりってケースもよくあるけど、それでも最低限の品位が必要よね。あんな雑草みたいな女は主に相応しくないわ。そう思うでしょ?」


 知らんがな。


 ……アルカ、美少女だと思うよ? 確かにどこか垢抜けない野暮ったい雰囲気はあるけど、着飾ればかなりのもんだと思うよ。


 第一、設定あるしね。


 アルカはかつての亡国の王族に連なる血筋なんだよね。

 それ関係で、身内が死んで子供一人になった時、今の里親が引き取った、って設定がある。


 ほら、攻略キャラにモロに王族とか貴族とかいるからね。

 「身分がー」とか「生まれが下賎なー」とかいう、もっともな障害があるからね。


 シナリオによっては、アルカが亡国の姫君って事実が発覚し、王子様などと結ばれてめでたしめでたし、と。そうなるわけだ。


 まあ、アレだよね。

 庶民として育ったけど実は私はお姫様でしたー、なんて設定は、乙女ゲーの王道だよね。よくある設定だと思う。


 今のアルカは自分の生い立ちを知っているのかね? 知らないのかね?


 まあどっちにしろ、御前試合であんな派手な殴り合いができるようなアルカとして育っている。

 自分のルーツを知っていようが知っていまいが、大して変わらないかな。


「落ち着け。下手なことを言うと主に睨まれるぞ」


 熊獣人が、完全にジェラシーでぐちぐち言っている赤毛の少女をたしなめた。


「それでなくとも睨まれただろう」


「本当ならあんたが睨まれたはずだと思ってるわ。しくじったあんたがね」


「ああ、その点に関してはツイてたな」


 話がわかんないんですけど。


「なんかあったの?」


 答えが返ってくるなんて期待もせず、軽い気持ちで聞いたら、驚きの事実が発覚してしまった。


「この前、人違いでアルカ以外の光持ちを殺しちゃったのよ」


 え?


 ……お、ちょ、え? うそ、マジか?


「君がアクロディリアを殺したの?」


 一瞬思考が停止してしまった。まさかこんな流れで理由が判明するとは。


「殺った」


 あ、マジか。あ、ほんとにマジなんだ。マジなやつなのか。


 …………


 怒りでも湧くかと思ったけど、そうでもなかったわ。

 たぶんきっと、アクロディリアの肉体が生き返っているからだろう。魔王の秘術が成功して。

 だとすると、当人同士で示談的なのが済んでいるんじゃなかろうか。


 まあなんにせよ、無関係を装うために余計なことは言えないわけだが。


 ……あ、ちょっと待てよ?


「本当ならそっちのクマさんが殺してたの?」


「アルカロールをな。俺もあいつは主に相応しくないと思っている。殺すつもりで仕掛けたが、邪魔が入ってな。その邪魔がもう一人の光持ちだった」


 あ、じゃあ、やっぱこの熊がガステンさんか。

 シナリオではアルカを殺して魔王に殺される運命だった、不幸な奴か。


 なるほど、皮肉にもアルカを殺しそこなったことで生き延びたと。

 しくじって助かるってのも、確かにツイてるね。


 色々確定はしていたが、どうやらこれで情報は揃ったかな。


 ゲーム上でアルカが死ぬシナリオに、兄アクロが乱入してなんとかアルカ死亡を凌いだ。

 その後 アクロディリアはアルカと人違いしていた赤毛の少女に殺された。


 アルカを殺されることで激怒した魔王は、ガステンを殺しちゃうんだけど……

 うん、まあ、アクロディリアを殺されたところで魔王的には「別に関係ねえし? つかアルカに嫌がらせしてた分だけ嫌いだし?」という心理状態となり、ちょっとオコだけで赤毛の少女は許されたと。

 人と事を構える気がないなら、そりゃ多少は怒るべきだろうしね。


 あとはアルカたっての希望で、魔王の秘術でアクロディリアが復活。今に至ると。


 まあアルカ的には、自分と勘違いされて殺されたとなれば、放っておく気にはなれなかったんだろうね。

 そもそもの原因は、魔王を復活させた自分にあるわけだし、と。

 そう考えたんじゃなかろうか。


 なんつーかさぁ。


「もう手遅れじゃない?」


「え?」


「だってあの人、すでにアルカにベタ惚れでしょ」


 よっぽどじゃね?

 部下に女殺されて部下殺すって。

 もうその時点で、少なくとも「どうでもいい女」ではないでしょ。


 しかも、さっきの私の「アルカ殺す」発言に対する、あの殺気。

 アレはマジのガチな奴だった。

 脅しでもなんでもなく、本気で殺してやろうかって気概を感じた。


 もうベタ惚れじゃないの? すでに。自覚があるかどうかは知らないけどさ。

 今更アルカを殺したところで、どうにかなるとも思えない。


「――そろそろ話を始めましょうか」


 あ、現実逃避しやがった。


 



 熊獣人はガンズ、赤毛の少女はリア・グレイと名乗った。


「かつては第三魔将軍ガステンと呼ばれていた。『怪塵の熊王ガステン』とは俺のことだ」


 あ、そうなの。

 キャラ絵もなく、戦闘時にモンスター絵だけ……ドット絵って言うの?

 それしかなかった上に、出てきてすぐ退場しちゃうキャラだったからなぁ。


 予定調和で作られたはかないキャラなのに、大した二つ名もあったわけだ。……すまんガステン。冷静に考えたらとんでもなく可愛そうに思えてきたよ。殺され要因のちょい役とか嫌過ぎるわ。


「私は第二魔将軍リアジェイルと呼ばれていたわ。主に次ぐ闇の使い手だった」


 ほうほう。魔法使い型ってわけだ。


「ちなみに聞くけれど、主の正体は見抜いたの? それとも知っていたの?」


 おっと、探り入れてきたな。

 そうね、アルカの名前出す辺りとか、魔王の正体とか名前とか自己紹介的なことを求めなかった辺りとか、明らかに事情を知っている風ではあるよね。


「魔王でしょ? 危険な気配は感じてたからこの辺に近づかないようにしてたけど、見て確信したよね。ねえ、あれで力が戻ってないってほんと? ヤバくない?」


 半分は本当のことを言っておく。元から知ってる、とは絶対言えないしね。


「今、全盛期の六割くらいだな」


 マジか。今六割か。今の倍くらい強くなる予定なのか。


 いや、そりゃそうかー。

 今の私が倒せる程度なら、封印なんてされてないっつー話だわ。

 この世界の人ならざる精鋭を掻き集めれば倒しきれるだろって話だわ。古龍とかもいるんだしさ。


 封印ってのは結局、臭い物に蓋することだからね。問題の先延ばしとも言うよね。


 うーん……裏設定に詳しければ、なぜこの学校に魔王が封印されていたのかーとか、その辺の事情もわかったのかなぁ?


 ……そうでもないかな。ゲーム自体の作りこみは甘い感じだったし。


「話を進めるぞ。まず主の復活と同時に、主の眷族たる俺やリアが魂に刻まれた記憶を取り戻し、主が力を取り戻すにつれて――」


 取り戻すにつれて、各地に散っていた眷属たちも次々反応してこちらに向かってきていると。

 その「こちらに向かってきている部下」という厄介な眷属こそ、私が迎えを頼まれた人じゃない者だと。


「もう動いてるの? まだ?」


「準備中、といったところか」


 準備? 嫌な予感しかしないんだけど……


「何? 身だしなみを整えてるとか?」


「そんな可愛い奴じゃないわ。ガサツで野蛮で無礼者よ」


 あれ? リアとは仲悪い感じか。まあどうでもいいか。


「周囲に魔物を集めている。奴にとっては数千年ぶりの目覚めで、主の現状と意志がわかっていないからな。我らが王の偉大さを物語るためにも、単身帰還などしないだろう」


 あー……


「軍人タイプ?」


「ああ。俺と同じ最前線で戦う役割を持っていた、生粋の武人だ。まあ指揮官でもあったが」


 うん、なるほど。


「やっぱ急いだ方がいいみたいね」


 動き出す前に止めないと、かなり面倒なことになるからね。


「しっかり働けよ。おまえの働き次第では、主の直属の部下になる夢も叶うぞ」


 そんな夢持ってないんすけど。


「まあ、あんたならいいかな……話はできそうだし」


 リアは完全に私を利用してアルカをどうにかしようと思ってるよね? やんねーよ。絶対魔王の逆鱗に触れるじゃん。





 で、肝心の話である。


「で、その面倒なのが復活した場所は? だいたいの場所くらいわかってるんだよね?」


 私には探しようがないからね。

 闇雲にやれとはさすがに言わないだろう。時間もないし。


「この大陸にある、マイセンという街の近くだ」


 マイセン? あれ? どっかで聞いた……


「最近、遺跡が発見されたって噂が立っているはずよ。聞いたことない?」


 遺跡?


 ……あ、そうだ思い出した。クローナから聞いたんだ。確かカイランとの云々のあとだったかな。


 そういえば、だ。


 よーく思い出してみると、マイセンと言えば、攻略キャラであるラディアスの名前……あっ。思い出したっ。というか繋がったっ。


 ――そうか。お兄ちゃんはラディアスのシナリオを壊すために闘技大会に出たのか。





 そう、ラディアスのシナリオだ。


 あいつのシナリオのボス戦は、突如実家のあるマイセン領地にモンスターが大量発生し、アルカと一緒に現場に急行するって流れだった。

 現地で、コンプレックスである現役騎士である兄たちやお父さんと共闘して認め合う……みたいな、そんな感じだった。


 そうか。そういうことだったのか。


 きっとお兄ちゃんは、「魔物の大量発生」の原因がわからなかったんだ。

 そう、ラディアスのルートでは原因である魔王の部下が出てこなかったから。


 だから、ラディアスのシナリオを壊せば、「魔物の大量発生を防げる」と考えたんだろう。

 つか、それ以外で止められそうな方法が、思いつかなかったのかもしれない。


 と考えると、魔王が復活していなくても、部下は近い内に復活する予定ではあったのかもしれないね。

 封印ってのはだいたい風化するからね。徐々に弱まっていくもんだから。


 まあ、いい。


「とりあえず行ってくるわ」


 なんにせよ行くと決めたんだ。それならやるべきことをやるまでだ。

 





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