48.平凡なる超えし者、恋愛してぇなーとつくづく思う……
「――引き受けてくれるだろうか?」
…………
…………あっ。
お、おいおい……思わず、固唾を呑んで聞き入っちゃったよ。
まさに歴史の1ページが捲られる瞬間だった。私らしくもなくマジで聞いちゃったよ。
そしてハラハラしながらキルフェコルトの返答を待つ私もいるよ。おいおい。この世界の先行きは私には全然関係ないことなのに、柄にもなくドキドキもしてきたよ。おい筋肉王子、早くなんか言え。
まあまあ長めの沈黙を経て、全然関係ない私が焦れてきた頃、キルフェコルトは努めて明るく声を上げた。
「――だってよ、カイラン。そういうわけで、おまえこいつの天使活動を支援してやってくれねえか?」
え、そこでカイランに振る?
いや、その前に、こんな歴史を左右する話をしている時に、ほぼほぼ部外者の盗賊を同席させるってどういうことだよ。
……あ、そういうことか。ちっ。肉体に似合わず頭も回る奴だ。
「――……そこまで考えて、この場に俺を残したのか?」
だよね。そう考えるべきだよね。ちっ。ちっ。切れ者めっ。
「――天使の正体がわかった時に、ウルフィが先のことを決めたんだろうってのはわかったからな。
――こいつは俺ほど無責任じゃねえ。決めかねている間にこんな大胆なことはしない。
――仮に、万が一にも天使活動中に死んだり失踪したら、権力争いで俺が勝ったから俺が継ぐことになった、みたいな邪推の余地を世論に残しちまうだろ? だから必然的に、降りると決めたんだろうとはすぐに思った」
うーん……やっぱまともな王族は違うなぁ。私より一歩二歩くらいは先を見ている感じがする。
「――こんなに早く正体が暴かれるとは思いもよらなかった。こんな凄腕が野放しとは恐ろしいな」
「――俺もだよ。まさかカイランがこんなに簡単に連れてくるとは思わなかった。はっきり言って、絶対に敵に回したくねえな」
それは同感だ。カイランは敵に回すべきじゃない。
あと、この国も敵には回したくないなぁ。
「――俺のような悪党に頼るな。そもそもを言えば、指名手配犯の俺と王族が繋がっているという事実さえ都合が悪いはずだ」
「――心配なんか一つもしてねえよ。おまえは約束を守り、筋を通すタイプだ。だから天使活動の今後をおまえに頼んでるんだ」
「――俺は盗賊だ。裏切るかもしれないぞ」
「――ならばきっと、ウルフィが先におまえを裏切った時だな。おまえから先に裏切るなんてありえねえ」
「――甘っちょろい王子だな。おまえが次期国王では国が心配だ」
「――いいんだよ。ウルフィは一人で考えるタイプ、俺は人に助けてもらうタイプだ。おまえみたいな有能な奴を傍に置いて、至らないところを支えてもらうんだよ。だから支えろ。俺を」
あ、そう。
なんつーか、やっと、キルフェコルトの本当の魅力がわかった気がする。
あいつ、あんな偉そうなくせに、自分一人でできることは少ないってことを理解してるんだな。
そして理解しているから、自分にできることはできるだけやろうと決めているんだろう。それがきっと、みんながキルフェコルトを助けたくなる理由でもあるのだろう。なんか私もちょっとだけ味方したくなる奴だから。
「――おまえみたいな甘い奴は嫌いだ」
「――構わねえよ。弟に付き合ってくれればな」
「――問われる前に言うが、兄がここまで推す人材を私が断る理由はないからな。兄が信じるに足ると言うなら、それはもう私が貴方を信じる根拠だ」
おいおい。二人の王子に口説かれてるよ、カイランくん。たくましい大柄なイケメンと、線の細い美少年に。三角関係だよ。なんて羨ましい。誰か私も口説いくださいよ……あれ? ん?
つか、なんか一瞬で冷めたんだけど。
男が男を口説いてる、って考えたら、瞬時に冷めちゃったんだけど。なんだよこのやらないか感。
なんで男が男に口説かれてる現場を盗み聞きしなきゃならんのだ。あとそういうイケメン同士の消費ってどうなんですかね。一女子として、イケメン同士のアレコレが嫌いとは断じて言わないけどさ。
なんつーかこう、……一人くらい私を口説けよ、って思わなくもないわけで。
他人の甘味を指くわえて見守っててどうする、私が甘い時間を味わいたいよ。ほんとにたまにでいいからないですかね。私に甘い時間。多感な時期なんだよ? こんな多感な年齢に数多のイケメンと知り合うも全員素通りするって何この「身の程を知れ」って無言の説得。ここ最近の甘い時間なんて、クローナとしか過ごしてないわ。
「――……時間をくれ。今すぐ返事はできん」
そんなカイランの返事保留を聞いて、私はクローナのベッドにダイブした。あーあっ。もう寝よ寝よっ。不貞寝しよっ。
あと何時間寝られるかわからないが、明日は早い。
後追い天使騒動もなんか一段落したみたいだし、ボスキャラ・カイランもこの様子ならクルスにちょっかいを出すこともなさそうだ。
てゆーかあいつは落ちるね。王子たちの口説きに。
天使活動の意義と、自分が見つけた行き過ぎた正義の共通点と共感を見ていると思う。
あと部下たちのことを考えたら、いつまでも札付きでフラフラしているよりは……って迷いもあるだろう。だから落ちると思う。誰か私を口説いてくださいよ。
国だのなんだのの今後の展開は、私には関係ないからね。多少気にはなるけど面倒事になるなら知らなくていいや。
……ふう。恋愛してぇなー。デートとかしてぇなー。
不貞寝した私は、二回ほど起こされた。
クローナに抱かれた時に一回。
なんか語りかけられたが無視して寝続けた。ちょっと寂しそうに「おやすみ」って言ってたのは覚えてる。
でもあなた、毎晩私にそういう「先に寝られて置いてけぼりな寂しさ」を味わわせてるからね。たまにはクローナも味わうといいよ。その微妙な気持ちをね。
カイランに渡した空耳草の種が割れて呼び出しサインを受けるも、無視した時に一回。
もう今夜はいいだろ。盛りだくさんで付き合ったんだから。晩ご飯分は絶対に働いたからもういいだろ。
とまあ、計二回ほど夜中に起こされたが、私は寝続けた。
翌日。
なんだかんだ動き回っていたせいで、ベッドに入ったのが夜中だ。たぶん二時とか三時くらいだったと思う。
寝入ってからそんなに時間は経ってないはずだが、朝が来た。
元々睡眠も私の気分次第なので、寝覚めが悪いことはなかった。ただちょっと二度寝がしたかっただけだ。
外は明るいが、雨は相変わらず降っている。
朝が早いクローナと一緒に起床し、「昨日の夜、カイランと会ったでしょ?」と問われたので、こう返した。
――ちょっと出てくるね。数日帰らないかもぐぇっ!
「――イヤ! 数日もいなくなるなんてイヤ! 離さない!」
……おお、なんという女神っぷり……昨夜ちょっと荒んだ私の心が慰められる……あれ? ちょっと待てよ?
クローナって、キルフェコルトが好きなんだよね?
…………
つまり私は愛人枠ってことか。本命が別にいるので浮気相手側の存在ってわけか。
……まあそれでも、まあ、まあ……いいかなっ。
うおークローナー。
私も離れたくないよーでも行かないといけないんだよぉー。
――とまあ、なかなか甘いけどかなり不毛な時間を過ごしてから、私は外へ飛び出した。




