03.平凡なる超えし者、舞い戻る……
いやーはっはっはっ。まいったまいった。そうかーネズミだもんなー。そりゃ鳥狙うわなー。完全エサだわなー。はっはっはっ。
なんか狭いブニブニした場所……まあ確実に胃だと思うけど、そこに押し込められているんだと思う。
いわゆる丸呑みってやつだ。
いろんな世界でいろんな経験をしてきたけど、鳥に丸呑みにされたのははじめてだ。正直においが……いや、鳥の名誉のためにこれ以上はやめとこう。
さすがに幻獣なので胃酸で溶かされる的な危機はなさそうだ。
でも長居したい場所では断じてないので、さっさと脱出を試みることにする。
というか、急いだ方がいいよね。
知らない場所から更に知らない場所に運ばれるとか、もう迷うしかないし。
胃の壁に植物を生み出す。重ねるようにどんどんどんどん生み出す。しつこく生み出す。私の自由になるスペースを埋め尽くすように生み出す。とことんやってやる。
「――ぐぇっ」
なんだかふらふらし始めたかと思えば、鳥に思いっきりゲロられた。よかった。後ろから出されたらさすがにトラウマものだった。それにしても悲しい鳴き声だったな、今。
上空で放り出した私を見捨てるように、鳥は見向きもせずに飛んでいく。
もしかしたら毒持ちだとか勘違いしたのかもしれないな。餌を見捨てる理由がないし。
胃の中に生み出した草は、私が離れれば枯れる仕様のようだから、あの鳥が死ぬことはないだう。たぶん。
――いてっ。
地面に落ちた。正確には草むらだ。
落下の衝撃で痛いかと思ったが、そうでもなかった。胃酸にも溶けなかったし、身体はそれなりに丈夫なのかもしれない。さすが幻獣。
それにしてもここはどこだ。
さっきまでいた街だか国だかから離れたのかな。
辺りを見ても、自分より何倍も背の高い草むらがあるだけだ。見通しのいい場所にいかないと現在位置さえわからない。
よし、とりあえず手近な木に登ってみるか。……実は木も見えないくらい視界が悪いんだけどなぁ。
――たとえばこんな使い方はどうだろう。
足に魔力を込め、地面から真っ直ぐに育つ植物――竹が伸びるイメージを吹き込んでみる。
お、成功した。
足元から、このネズミの身体のサイズに合わせたほっそい竹がニョキニョキ伸びだし、少しずつ私の身体を上へと押し上げていく。まあエレベーター的な感じだ。体勢的には出初式だけど。
地から1メートルほど伸びただろうか。
ようやく周囲の諸々が見えるようになった。
……城門らしきものと、建物らしきものの間の広大な空き地、みたいなところにいるようだ。
一応国の敷地内だけど、かなり片隅の方って感じだろうか。
無造作に伸びた草だの木だのが所々に生えていて、私が落ちたのもその内の一つだったみたいだ。
近くに街道っぽいものがあり、旅人だの馬車だのが歩いているのが見える。
それと、一件だけ、なんだか花木に囲まれた古い民家みたいなメルヘンいっぱいの建物が見える。
一見廃墟にも見えるが、あそこだけ色とりどりの花が咲いているので、管理されているんじゃないだろうか。一応人はいるっぽい。世捨て人が住んでたりするのかな。
ちょっと気になるけど、あんまり近くないからパスだな。それより街の方に戻らないと。
それにしても遠いな。
この小さな手足で走るとなると、ちょっと時間がかかりそうだ。
考えるだけで正直しんどいので、街道を通る馬車に乗せてもらおうかな。
やれやれ。身体が小さいってのは大変だ。
ちょっと車輪に巻き込まれそうになったりもしたけれど、なんとか屋根付きの馬車を捕まえ、屋根に登って一息つく。
あんまり疲れはない。
それに寒暖の感覚もあまりない。
草木の茂り具合から、そして人の服装から夏の終わりか秋って感じだと思うけど。日差しの温かさ感じるんだけどなぁ。
それと、空腹がない。
確かネズミって、自分の身体の何倍もの物を食べなきゃいけないくらい燃費が悪い生物だったはずだ。一日中食べてる的な感じで。
あと味覚が鋭くて、すぐ毒とかなんとか自分に害がある食べ物を見分けるとか。
うーん……ちょっとうろ覚えだなぁ。合ってるかな?
まあネズミと言ったって、厳密には違う。
この肉体に関しては、ネズミの習性や生態にはそんなにこだわらなくていいのかもしれない。追々調べていくべきなんだろうけどね。
ゴトゴトと揺れる振動が嫌だったので、クッション代わりにツタ草のベッドを作って横になる。
ふう……一休み一休み、っと。
青空を見上げながらの休憩は、気持ちいい。ポカポカした日差しも気持ちいい。太陽はほぼ真上にあるから、今は昼ってことでいいのかな? あと今後は鳥にも気をつけよう。
それにしても日差しが気持ちいい。
食べ物はいらないっぽいけど、もしかしたら光合成は必要なのかもしれない。あと水か。ノドも渇かないけど、飲めるものなら飲みたい。
うつらうつらしながら、街に到着するのをのんびり待つ。
馬車が止まると同時に目を覚まし、さっさと下車させてもらう。脇道に逃げ込む際に引いていた馬と目が合った。お世話さまでーす。
今度こそ猫だの鳥を警戒しながら、とっとと一番高い建物上に登ってみた。たぶん教会だと思う。鐘が設置された尖塔の、更に上まで……飾りの紋章の上までやってきた。何教のアレかはわからないけど、足場にしていることを心の中で謝っておく。
――うむ。異世界ーって感じの町並みである。
かなり広い街だ。
いや、城下町と言うべきか。王都だし。
遠くに見える城が目立つが、あれは私が探している……というかお兄ちゃんがいると思われるゲームの舞台である魔法学校ではないだろう。今は用事もないので省くとして。
うーん……それっぽい建物はいくつかあるけど、どれだろう?
人型なら情報収集とかできるんだけど、さすがに無理だしなぁ……
仕方ない。当たりをつけて回ってみるかな。
よーし、一眠りしてから本気出すぞー。