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29.平凡なる超えし者、ニンゲンモドキになる……






 細かい部分は覚えてないが、大まかにはこんな感じだったと思う。


 カイランは、弟のクルスに会うために、今王都を目指している。

 ゲームでは、主人公アルカとクルスのイベント中に突然現れるキャラだ。


 で、最初の出会いからなんかうだうだ「あれは誰だー」「なんでもないー」とかのやり取りが何度かあって、クルスらしくない悩んでる葛藤的な演出もあったりして、二週間くらいしてから教えてくれるんだよね。あれはパンツですか? いいえ兄のカイランです、と。


 それからカイランとは何度か会って思わせぶりな会話をして、詰まるところ「ぼぼ、ぼ、ぼくを受け入れない世界なんて、こここわしてやるぞぉ!」みたいな話にクルスを誘ってくると。

 短くまとめるとこんなもんだ。


 最終的にクルスは主人公アルカを選ぶってことで、アルカへの告白と兄との決別をする。

 そして「すべてを知ったおまえらは生かしておけない」とか勝手に話しておいて勝手な理由で殺しに来るカイランを返り討ちにすると。

 で、カイランは死ぬと。


 今が十月だっけ?

 なんだかんだで終盤まで引っ張るんだよね。カイランネタで。うだうだと。


 たぶん今は、「一番最初の再会」のために移動しているのだろう。

 そして私は、この「一番最初の再会」の前に確保しようとしている。


 我が兄というイレギュラーが介入しているので、どこまでシナリオに沿って動くのか不明瞭である。

 だからこそ、「まだシナリオに沿っている」内に行動をしてしまうのは、悪くないだろう。

 私としても、カイランネタを来年三月まで引っ張るのは、勘弁してほしいしね。それこそ本筋に変な絡み方をされても困るし。さくっと済ませてしまおう。


 もしアルカがクルスを狙っているなら、恋愛成就を潰されてご愁傷様ということで。

 まあ引っ付くもんなら、こんなきっかけなんてなくても自然とくっつくだろうよ。





 この大陸のマップは頭に叩き込んである。

 加えて、カイランたちがどう移動して王都に少しずつにじり寄っているかも、ジングルの報告で聞いている。

 あえて隣の町村ではなく、一つ飛ばした隣を好んで立ち寄り、一晩ないし補給のみ済ませて出て行っているのも知っている。


 基本は野宿と、一晩の宿。

 カイランたちが盗賊団として動いているなら、恐らく二、三班に分かれて行動している。宿に泊まるチームと野宿チームが入れ替わって利用しているのだろう。


 一チームは2、3人。

 別々に行動はしているが、すぐに合流できる距離を保っているだろう。

 だから全体の規模は、十人はいないって少数精鋭だと思う。


 報告を聞くに、かなり統制が取れていて、カイランの指示にも過不足なく従っている節があるからね。大人数になればなるほど、集団行動にはほつれや綻びが生まれるもんだ。

 移動の際に問題を起こしていないって話だから、盗賊にしては集団としての統制が取れているってことだ。

 そういうのは堅気とか訓練を受けた兵士とか軍人ってパターンが多いしね。

 だから逆に言うと、結構レベルが高い盗賊団なのかも。まあクルス編のラスボスがカイランだから、強さで言えばラスボス級だしね。


 さて。


 踏み均されただけの道は、曲がりくねりながら果てしなく続き、目指す村も後にした王都も目視することはできない。

 だいぶ進んだはずだけど、まだ全行程の五分の一くらいかな。結構遠いんだよね。


 明日の昼にはカイランたちが立ち寄る村に先回りできて、夜から翌日の間には連中と遭遇する予定だ。

 読みがはずれてもあと三つは候補を考えてある。

 でもまあたぶん会えるだろう。移動傾向は見えてるし。


 星の位置で方向を確認しながら夜道を走っているわけだが、そろそろいいだろうか。


 距離を稼ぐために大きくなっていたネズミの身体を「変化」させる。

 魂の形に見合う、私に一番合う姿に。


「――よし」


 擬似的ながら内臓も入れたし、声帯も作ったからしゃべれる。若干全身緑色だけど、まあいわゆる「人型の植物」になってみた。


 ここから、こう、毛足を調整したように細かく変化を加えて、色も肌色に近くして……あ、鏡があると便利だな。直立する「オオオニバス」を生やして薄く水を張り、水鏡にする。


 ……うん、これでいいだろう。


 水面に揺れる髪と瞳は緑色だが、弓原結にそっくりな身体を再現してみた。

 学名風に言えば「ニンゲンモドキ」って感じ? フフッ。服装は……あの魔法学校の制服でいいか。繊維を編んで作ってみよう。

 こういう時に胸を盛ったりしないのが私のポリシーである。私はパットに逃げない。共にがんばろう、同志たち。


 クローナは例外中の例外だったし、今でもあんまり人と接するつもりはない。

 が、今回ばかりは別件だ。


 私を知る者はなく私の存在を認識する者もいない、ってのが理想だったけど、それこそつまらないこだわりで難易度を上げることはない。

 最善を尽くせば楽に済ませることができるなら、そうすればいいのだ。

 失敗できない、時間を短縮したい問題なら。


 クローナがカイランをどうするか悩んでいた時、私もどうするか考えていた。

 プラン自体はすでにできているので、やるだけでいいのだ。


 問題は、ネズミの姿のままでは、意思の疎通からつまずいてしまう。

 更に言うと、荒事になる可能性が高いのに、「植物を操る謎のネズミ」という言い訳の利かない姿を人目にさらす危険がある。

 ならば最初から「植物を操る人」という姿を見せた方が、まだ色々説明が付くし話も簡単だ。


 百花鼠は実在するが、このニンゲンモドキ弓原結は実在しない。

 ネズミの仮の姿にすぎないからね。

 極論を言えば、この姿ならどれだけ人目に触れてもいいのだ。実在しない人を隠すのは簡単なことだから。


 よしよし、これで人里に堂々と混ざれるってもんだ。





 疲労知らずの身体を駆り、すれ違う者もないまま目的の村に到着してしまった。


「お、誰だい? 村になんか用かい?」


 明け方、彼方に陽が昇り始めた頃だ。もう世界は明るく、早い人は活動を始めていることだろう。いつもの私なら確実に寝ているけど。


 夜の門番に立っていたおっさんが、女の子だからか獲物の斧を構えず笑顔で対応する。おいおい、門番がそれじゃいかんよー……と言いたいところだが、この国はかなり平和で治安がいいので、門番は人よりモンスター関連の方を警戒しているのだろう。


「おはようございまーす。旅人でーす。宿とか借りれます?」


 別に敵対する気なんてさらさらないので、私もフレンドリーに接する。


「宿か。村がこれなんで小さいところが一軒しかないぞ」


「問題ないっすよー。入っていい?」


「あ、規則なんでな。身分証を見せてくれ」


 え、身分証? そんなのいるの?


「身分証、ないんですけど」


 基本中の基本なのかね。クローナからも聞いてないし、本からの情報もなかった。ありがちだけど冒険者ならギルドカードが身分証になるんだよね。


「ああ、そうかい。でもその服、王都の魔法学校のだよな? あそこの生徒なら構わないよ」


 あ、そうなんだ。たまたま選んだ服なんだけど、制服って意外と物を言うんだね。おっさんが敵意を微塵も見せなかったのも、制服姿だったからかもしれない。

 というか、この世界も制服好きが多いってことかもしれないね。男って女子高生の制服とか好きだからっ。そんなに好きなら制服と結婚すればっ? ……私も学ラン男子好きだけど。学ランと結婚するか。イケメンの使用済みの学ランと。


 民家みたいなのが二十ほどの小さな農村に入り、とりあえず宿に向かう。

 一晩走ってきたからちょっと休憩だ。疲れはないけど。


 小さな宿の看板が出ている、明らかに普通の民家って感じの家を訪ね、ここに住んでますーみたいな生活感まるだしで隠す気もない恰幅のいいおばちゃんと交渉する。


「こんなボロ屋だからねぇ、一晩3000ジェニーでいいよ」


 あ。金もねえわ。






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