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27.平凡なる超えし者、気になる情報を二つ得る……






 意思疎通ができる相手がいる、というのは大きい。

 まあ、そもそもを言えば、この世界の住人とはできるだけ関わらないようにしようと思ってはいたが。

 でもこの差は非常に大きい。


 クローナのお世話になり始めて、早くも数日が過ぎた。

 私は早々にクローナとの同行をやめ、彼女の部屋で本を読んで必要な情報をかき集めるという作業に入っている。

 本も、図書館に行けるクローナに借りてきてもらっているしね。


 メイド仕事の合間や休憩や就寝時間に部屋に戻ってくるクローナが、やたら私を抱きしめたがるのと抱き枕をねだる以外は、さして問題はないと思う。

 私の場合、抱きしめられたら寝ればいいだけだしね。この身体は寝ようと思えばいくらでも寝られそうだし。やっぱり植物ってことなのかな。


「――うわ、なんだそれ」


 クローナの生活態度に変化を見たのか、キルフェコルトが抜き打ちで部屋を覗きに来て発覚したりもしたが。


「――抱き枕です……」


 休憩時間、そこそこの大きさになっている私を抱きしめベッドに横になりうつらうつらしていたクローナは、突然の主人の襲来に慌てふためき飛び起きた。

 そして、恥ずかしそうにそう答えた。


 残念ながら、私には何もできない。

 もし口が利けたら「女子の部屋に勝手に入るなんてサイテーゲスードスケベ野郎ー無駄にムキムキー」などと言ってやれるのに。


「――抱き枕……いまいちよくわからんが、しかしそれは……なんだ? 緑色の……リス?」


「――ネズミです」


「――そうか……ペットかとも思ったが、ぬいぐるみか」


 生き物としての気配を絶っていて、なおかつ身動きをしない。鼓動もない。

 クローナに放り出されたままベッドに転がっている私を見て、キルフェコルトは生物じゃないと判断したようだ。


 フッ。

 先日の本アクロとの遭遇事件のように、まさにGの出現がごとく騒がれると面倒だから動かなかっただけだったのだが、それが功を奏したか。


「――部屋でペットを飼うには申請が必要だが、ぬいぐるみなら問題ないな。クローナが言わないなら無理に知ろうとも思わなかったが、一応俺は生徒会長だ。生徒会長が規則違反をするわけにはいけねえからな」


 ああ、そうね。体裁が悪いよね。しかも王子様って身分だと、身分があるから我侭も違反も許されるとか言われそうだよね。

 キルフェコルトの公平にやっていきたいって意思は理解できる。ただ、いきなり女子の部屋に来るのはどうかと思いますがねっ。


「――……それにしても、女らしい趣味が一切なかったおまえが、この歳でぬいぐるみか。意外っつーかなんつーか……」


 キルフェコルトは、ひょいと私を鷲掴みにして持ち上げる。おい、乱暴に扱うなよ。わき腹を掴んで持ち上げるとかやめろよ。


「――……」


 おい。無抵抗で無反応なのをいいことに無言で撫でるな。撫で回すな。


「――…………おまえが気に入った理由がちょっとわかった。ぬいぐるみ云々は置いといて、コレは手触りが抜群だな。最上級の生地みたいだ」


 君の手は硬すぎて嫌だけどなっ。つーか硬いだけならまだしもクローナみたいに優しく扱ってくれませんかねっ。


「――ほどほどにな。急に来て悪かった」


 とまあ、こんなこともあったりなかったりしつつも、穏やかな日々だったと言えるだろう。


 そんな日常の最中、いよいよ私の出番が迫ってきていた。





「――ういっす」


 お? 誰か来たようだ。


 クローナの部屋でだらだらしながら読書に勤しんでいると、隣の部屋からキルフェコルトとクローナ以外の声がした。


 ふうん。

 私が察知できなかった誰か、か。


 どうやら来客は曲者のようだ。

 というか、声に聞き覚えがあるわ。あの時の会食に出席していただらっとした奴だな。名前はジングルだったっけ? ゲームには出てこなかった奴だね。


 ってことは、あの時「王子の密偵だな」って思ったのが当たってたみたいだね。いわゆる王子様の耳だ。


「――おまえが来たってことは、何かあったんだな?」


 あ、なるほど。定期連絡じゃなくて、問題があった時だけ会いに来る報告形式か。

 ……いや、密偵が一人とは限らないから、ジングルはそうだってことか?


 まあ、なんでもいいか。


 問題は、ジングルがもたらした情報だ。

 私は、向こうとこちらを隔てるドアの傍まで移動し、聞き耳を立てる。


 はてさて、どんな面白い話が聞けるかな?


「――二つほど気になることがありまして」


「――聞こう」


 おう早く。言え。


「――まず一つ目。このタットファウス王国に天使が出たみたいっす」


 てんし? あれ、どっかで聞いたな?


「――なんだと!? あいつ、俺に黙ってやらかしやがったか!?」


 ピンと来てない私とは正反対に、意味がわかっているキルフェコルトは大きく声を上げた。


「――そうだったら話は簡単なんですけどね。あのフロントフロン嬢が動いたわけじゃないみたいっす。天使が出現した夜、あの女は間違いなく部屋にいましたから」


「――何? ……どういうことだ?」


「――わかってる事実はそれだけなんで、どういうことかは俺にはわかりません。ただ単純に考えれば、あの女以外の天使が現れた、ってことになりますね」


 ああ、思い出した。

 お兄ちゃんが本アクロにさらっと「何をしたか」を話した時に、「天使計画」って名前が上がったんだ。天使はその時に聞いた固有名詞だ。


 確か概要もさらっと話しただけで、詳しくはわからないなぁ。病人を治して回ったとかなんとか、それだけしか言ってなかったし。


 で、今もたらされた情報では……あ、そう。


 お兄ちゃんが動いていた「天使計画」を、お兄ちゃん以外の誰かが動かしたってことか。そういう意味か。


 …………


 私に、というか、お兄ちゃんは関係あるのかな?

 模倣犯よろしく誰かが後追いで始めたってだけなら、私はノータッチでいいだろう。誰がやり始めたのか、なんてあんまり興味ないし。

 ただ、お兄ちゃんが関係しているかどうかは、確認するべきかもしれない。


 でもまあ、この流れなら、キルフェコルトが犯人を突き止めてくれるだろうね。


「――よし。できる範囲でいい、その件は調べておいてくれ」


 ほらね。

 さっきの反応からして、キルフェコルトは「天使計画」に注目しているみたいだ。私は詳しく知らないからなんとも言えないけど。


 ま、お兄ちゃんがやりたいって言うならサポートするだけだ。そのためにこの世界に来ているんだから。





「――で、もう一つなんですが、こっちはクローナ関係になるかな」


「――私ですか?」


「――カイラン、という名前に心当たりは?」


「――カイラン……」


 カイラン? あ、知ってる知ってる。そうか、そろそろクルスのイベントが始まるのか。

 クルスは、「純白のアルカ」に登場する攻略キャラの一人だ。なんか物騒なカタカナ言葉ばっか言ってる人狼族の少年って設定のキャラで、もちろんイケメンだ。


「――もしや同胞殺しのカイラン?」


「――それだ。クルスの兄貴なんだろ? だったらおまえも知ってるよな?」


「――ええ……故郷が同じの幼馴染だから」


 え、そういう裏設定があったんだ。クローナとクルスが幼馴染なのか。ふうん。


「――国境付近でカイランの目撃情報があったらしい。もしかしたらタットファウスに来ているかもしれない」


 来てるよ。

 世界を俺たちの物にしようとか寝ぼけたことを言い出してクルスを誘いに来るんだよ。

 クルスのシナリオのボスだよ。


 なお、カイランもイケメンである。

 というかクルスよりカイランの方が人気があるとかないとか、ネット界隈と薄い本関係で言われていた気がする。


「――つまり俺からすれば、犯罪者が国内に入り込んだかもって解釈でいいんだな?」


「――それでいいと思います。この件に関してはもう上が動いてますから」


「――じゃあ俺の出る幕はねえな。あんまり関係ない気はするが、一応気に留めておく」


「――続報が入ったらまた来ますんで。んじゃ俺はこれで」


 用件のみを伝えると、ジングルはとっとと退散した。滞在時間10分くらいかな。だらっとしているのになかなかのフットワークだ。


「――気になるか? カイランとやらのことが」


「――はい……私はこうして幼い頃から王室のメイドをしているので、一緒に過ごした時間は短かったのですが。それでも幼馴染ですから」


 そうなんだ。クローナの心境はなかなか複雑かもしれないね。幼馴染ってわりと特殊な位置づけだもんね。


「――彼が失踪して十年以上は経っているはずですが、まさかここで名前を聞くことになるとは思いませんでした」


「――クルスに伝えるのか? 今ちょっと付き合いがあるんだろ?」


「――伝えません。メイドの立場ゆえに知りえた情報には、守秘義務がありますから」


 だよねー。

 王子様付きのメイドともなれば、情報漏洩とかそのへん超厳しそうだもんね。


 まあ、仮にクルスに伝えたところでどうなるもんでもなさそうだけどね。






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