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14.平凡なる超えし者、モンスターを狩る……





 サイフの中に忍び込み、じっとしていると、強い魔力の膜を通り過ぎる感覚を覚えた。恐らく今「転送魔法陣」を超えたのだろう。

 まるで穏やかな海に浮かぶ小舟のように、小さく上下に揺れながら歩いていた魔法使い風の女が止まった。


「――二手に別れよう。俺とサリーは西回り、ザックとカーナは東回りだ。ある程度まで言ったら北上し、絶壁前のキャンプで落ち合う。なんかあったら魔法を打ち上げるから、駆けつけてくれ」


 リーダー格の軽戦士アーキンの指示で動き出す。

 軽戦士アーキンと魔法使い系のカーナ、女戦士サリーと弓使いザックという組み合わせで探索しながら移動し、合流ポイントで落ち合うと。

 なるほど、じゃあ私も北の絶壁の洞窟に向かえばいいわけね? おっけー。


 冗談ではなく、今自分がどこにいるのかわからないので、彼らと一緒に帰還しないと迷子になってしまうのだ。

 しかも「転送魔法陣」を使用している以上、今は王都から相当離れた場所にいるはずだ。絶対に近くではないだろう。自力で帰るとなれば、何日も掛けて帰るはめになるので、私にとってもこの約束は厳守せねばならない事案なのだ。


 彼らが動き出すのと同時に、私はカーナのポケットから抜け出した。地面に降り立つと、素早く移動し物陰に入った。崩れた石畳の破片の裏だ。


 おお……森か。これはなかなか……ほう。


 足元にある魔法陣からやってきたのか。

 石造りの祭壇みたいだが、だいぶ古いもののようで、あちこち崩れたり石が磨り減ったりしているが、ぼんやり光る魔法陣は無事のようだ。

 なるほど、維持・保存系の魔法も掛けられてるみたいだな。

 周りの柱だの石畳だのはともかく、魔法陣が自然に壊れることはなさそうだ。


 そして、周りは森だ。

 ここは深い深い森の奥地のようだ。緑以外は何も見えない。


 うん……なるほどね。

 百花鼠は、植物を司る者か。


 ――森が持っている魔力のせいか、感覚が木々や植物と繋がっているように感じられる。


 同調しているというか、自分が森の一部になってしまっているというか……植物が森の全てを教えてくれるというか。


 この森の中限定なら、どこで何が起こっているのか、どこに何があるのか、知ろうと思えば全部把握できる。

 詳細まではわからないが、どこに誰かがいる、何かがいる、くらいは余裕でわかるようだ。うーむ……チートだねぇ。私自身のスキルより優秀とはなかなかのものですな。


 もちろん活かさない手はないので、動物は無視して、モンスターを狩りながら北へ向かうとしよう。





 この世界は、魔素という生命エネルギーが重要なファクターとなっているそうだ。

 詳しいことはわかっていないけど、空気中に存在する魔素がなんだかんだあってモンスターになり、人や動物を襲うと。実にアバウトながらゲームの設定らしい設定がある。 


 どんだけ本を読んでも、この辺のアバウト設定は変わらなかった。

 まったく解釈の糸口が掴めなかったので、もうそういうものだと受け入れることにするとして。


 魔素とは生命エネルギーと考えられ、魔力と密接な関係があるっていうのは間違いないらしい。

 そして魔素を核にして発生するモンスターは、いわば魔素の塊と考えられる。


 イメージは作ってきた。

 伊達に数日を費やしてだらだら読書してきたわけじゃない。


 ――森が「いる」と教えてくれた、牙が異常発達したイノシシ型のモンスターに対し。

 ――私は木の枝の上からの「狙撃」を試みた。


「――…?」


 「狙撃」は成功した。

 イノシシにダメージはない。

 今は(・・)


 色々と調べていく内に、土地に染み込んだ魔素を栄養素として成長する草木があった。

 それは、ただでさえ生命力が乏しく干からびた大地から、無理矢理に栄養=魔素を吸い上げて死の大地にするっていう無茶な植物だ。まあヤバいところの借金の取立てみたいな強引な奴だね。


 傍目には、というか大地からすればとんでもないぼったくり植物だ。

 善意で土地を貸してあげたのに更に栄養まで根こそぎ奪おうっていうひどいやつだ。


 でもそれも生態系の一つ。

 過酷な環境下で生きるために進化した植物の一つに過ぎない。まあ、モンハン張りに自然は厳しいってことで。


 そんな厳しい植物の一つである「千色薔薇サウザンドローズ」は、その土地その土地で違う色の花が咲くという薔薇らしい。

 私も図鑑のイラストでしか見てないが、姿形は薔薇そのものだ。


 ただ、綺麗な色だ。


 薔薇の色は、ほのかに青みがかった美しい水晶色。

 透き通る花弁はガラスのように繊細で、触れたら壊れそうなほどの精緻を極める。絡みつく蔦も透明で、しかしこの管の中を細かな青い光が走り巡っている。あれがイノシシの生命……魔素なのだろう。

 

「――……フゴ……フゴ……」


 痛みも何も感じないのか、背中に寄生花を育てているイノシシは、だんだん動きが鈍くなっている。

 が、それに違和感さえ感じていないみたいだ。

 モンスターの生態まではわからないからなんとも言えないが……奴らは痛みを感じたりするのかな? モンスターは生態系の中にない、自然発生的な連中だから。さすがにわからない。


 熟れたら爆弾のように弾ける「種」を火薬代わりに、竹を使った簡易式の鉄砲……というか原理的には大砲を作って「狙撃」し、イノシシの身体に植え付けた「千色薔薇」は。


 栄養……魔素を吸って成長し、イノシシの身体に根を下ろし見る見る内に侵食し、いくつもの薔薇の花を咲かせようしている。


 イノシシが倒れた。

 全身に「千色薔薇」の根が巡っって生物の機能が止められたのか、それとも生命エネルギーたる魔素が完全になくなろうとしているのか。


 ガラスの薔薇に包まれたイノシシの上に、私は飛び降りた。


 ――理屈としては、これでいいはずなんだけどな。


 鋭いトゲがある「千色薔薇」のツタに触れ、「植物を自分の身体に戻す」。

 

「――…っ」


 途端、青白い光が音もなくはじけた。


 花と一緒に、イノシシが光の粒子となり霧散したのだ。モンスターを倒したらこうなるって書いてあったので、私は無事イノシシモンスターを倒せたってことだろう。急に足場を失ってこけたけど、まあ、これくらい問題でもなんでもない。誰も見てないし。恥ずかしいとこ誰にも見られてないし。


 それより、これでよかったらしい。


 ――まだまだ許容量がありすぎる魔力タンクに、少しだけ魔力が増えた。


 どうやら百花鼠のレベルアップは、魔素を吸えばいいようだ。

 いや、正確には、魔素を多く含んだ植物を回収すればいい、かな。


 もっと効率の良いやり方もあるのかもしれないが、今はこれでいいね。


 どんどん行こう。







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