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12.平凡なる超えし者、雨を行く……






 何日過ぎたか覚えていないが、寝る間以外を惜しんでずっと本を読みふけっていた。


 私のオヤツを狙って小鳥が飛んでくるくらいしか邪魔は入らないし、伸ばした「ツタ」だけで店の本を回収できるようになったし、日光がぽかぽか気持ちよくてすこぶる気分もいい。夜も目が効くので、特に読書するのに困らないし。

 いつでもうたた寝していい読書とは、なかなかの娯楽である。


 時々小さな「リンゴ」や「サルナシ」や「アケビ」の樹木を生み出し、ネズミサイズの果実を食べながらだらだらと本を読みふける。この辺を狙って小鳥もやってくるが、まあ、自由にやってくれ。私にこなければ別にいい。


 それにしても、本で知った「サルナシ」と「アケビ」の実は、かなり美味しかった。名前だけは聞いたことがあったので、私たちの世界にもあるはずだ。見た目も一緒なのかな?

 あと、この世界特有の果実「水明り」という果実も生み出してみた。

 池などの水辺に生えて湖面に枝を延ばし、水の上に成る果物だ。形はイチジクで味はリンゴに近い。

 池・湖の規模や土地の魔力によって大きく味が変わるっていう不思議な性質があるらしい。生息地が生息地なだけに水気が多い果実なので保存が難しく、市場に出回ることは稀なんだってさ。


 「ツタ」と「竹」で作ったベッドにゴロゴロし、同じ素材で作った譜面台のようなものに本を置き、「ツタ」でページを捲り読み進める。


 こうして私は、ほぼほぼ動かないまま、というか基本寝転んだままで時々周囲の様子を見るだけ、という数日を過ごした、と思う。たぶん五日か、それくらいだと思う。


 なんというか、いいかげん罰が当たったのかもしれない。

 自堕落に過ごすのもいいかげんにしろ、と。せめて立ち読みしろ、座り込むどころか寝転んで読むな、と。


 ――怠惰な読書生活に終わりを告げたのは、雫である。


 ポタポタと控えめにやってきたそれは、すぐに本降りの雨となった。


 表を歩いていた人たちと同じく、私も大慌てである。

 私はベッドから飛び起きると、読んでいた本と積んでいた本を「種」に変え、防水効果のある「蓮の葉」で包んで折りたたむ。

 勝手に借りてはいるが、借り物は借り物だ。できることなら傷一つ、水シミ一つつけてはならない。「種」なので濡れても大丈夫かもしれないが、大丈夫じゃないかもしれない。ならば大事を取るべきだ。


 急いで地面まで飛び降り、地面が濡れてぬかるむ前に行動する。


 これまた慌てて表の本を取り込みにきた、初老のおじさん店主の足元を抜け店内に入ると、目立たない店の片隅に本を返却しておく。これでよし、と。

 初老のおじさん店主は、本の虫という奴だ。私が様子を見るたびに、カウンターに座って本を読んでいた。時々奥さんに呼ばれて何事か話してはまた本を読み、という、実に私好みの生活を送っている。私も歳取ったらそんな生活したいな。まあ今でもしてもいいけど。


「――はぁ。まいったまいった」


 本をしまい込んだ初老の店主は、ざーっと降りつける大通りを眺めている。そこにはまだ避難できずに走り廻る人々の姿がある。風魔法で雨を避けられるらしいが、使えない人は大変だ。特に荷馬車は最悪だろう。

 

「――今日は店じまいかねぇ」


 空模様を見て呟く。どうやら今日はもう店を閉めるようだ。まあ元からお客さんも少ないからね。いいんじゃないすかね。


「――……あっ、ローラとエミュ……そういえば買い物に出とるな」


 嫁さんとお孫さんね。

 ああそう、買い出しに出てるんだ。そりゃ完全にバッドタイミングだね。ちなみに息子夫婦も一緒に住んでいるようだが、二人とも仕事で夜しか帰ってこないみたいだ。


 顔は、憶えてるな。

 もう六十歳くらいの夫婦だから、足腰にも来てそうだし、走るのは大変だろうしなぁ。お孫さんも五、六歳くらいだったっけ。


 ――よし、じゃあ、借り暮らしのお礼に、私が迎えに行ってあげようじゃないか。





 さっきまであれだけ明るかったのに、もう真っ暗だ。

 降り出したのは夕方頃だったと思うけど、すっかり夜のようになっている。


 大通りを行き交っていた人たちも、すっかり避難が済んでいるようだ。家に帰ったり、知り合いの家に逃げたり、近くのお店なんかに飛び込んだりしたのだろう。


 まあ、人目を避ける必要もなく走れるってのは、ありがたいけど。


 チョウチンアンコウのように頭から生えている花を「大きな蓮の葉」に変えて傘代わりにすると、いつかのように建物の上を「竹」を生み出し移動していく。


 この辺で買い物と言えば、近くの広場でやっている市場で間違いないだろう。


 果たして市場は……おお、もうちょっと混乱しているかと思えば、すっかり撤収が終わっている屋台ばかりだ。まあそうだね、屋台なんて天候第一だもんね。雨が降りそうになれば早めに切り上げる店も多いんだろう。


 店番と商品がない簡易屋台の屋根の下に、雨宿りしている人たちがそこそこいる。あの中に本屋の奥さんがいるんじゃないかなーっと。


 もう濡れるのを諦めたのか、雨の中を走り出す人もそれなりにいる。迎えがくる人もいる。そうしてパラパラと人が減っていき、私も下に降りて雨宿りしている人たちをチェックしていく。おっと、頭の「蓮」は目立つから解除しとこう。


 ――あ、いた。


 買い物かごを抱え、不安そうな顔で空を見ている初老の女性と、小さい女の子。私が探していたのはあの人たちだ。明かりも少ないから、夜出歩くって文化がほとんどないみたいだしね。不安だろうね。


 よし、じゃあ、準備しよう。

 ここ数日しっかり勉強したので、イメージはすでにできている。


 色々と調べ、また実験もしてきた上でわかったことは、この「百花鼠」という生き物は哺乳類だのげっ歯類だのという動物ではなく、本当に植物に近い生命体だということだ。

 植物だから基本的に食事を必要としないし、排泄もない。肉体疲労みたいなものも極わずかだ。

 強いて言うなら水と日光が充分だと思う。


 あと食べた分は確実に身体に付く、っていうのも特徴だと思う。

 簡単に言うと超太りやすい体質なのね。

 ただ面白いのは、余分に付けた脂肪……いや体積分だけ「生み出す」こともできるってことだ。

 「種」「植物」「植物の一部」「果実」と、植物に関しては生み出せないものはないと思う。


 要するに、ある程度は食い貯めしといた方がいいってことだ。

 どこまで体積を増やせるか、限界はまだ試していないが、現時点ではあんまり増やせないと思う。知識は増えてもレベル1のままだからね。


 次に、頭に生えている花。

 種類は本当によくある、珍しくもないその辺の花って感じだが、大事なのは「この身体から生えている」ってことだ。

 つまりこの花、アタッチメント的なものなのだ。まあ簡単に言うと「一部分だけ変身させられる部分」ね。全身じゃなくて一部分だけ。

 そしてこの身から生えているだけに、感覚が通じている。

 やろうと思えば「視覚」なども追加できる。


 私が本屋に伸ばした「ツタ」もこの部分を「一部変身」して生み出したもので、視覚や触覚といった五感を追加して操作した。

 なんだか見てると微妙な気分になる便利なリモコン触手的なものである。


 もちろん、感覚が通じている――というか私の身体の延長上にあるものなので、「伸ばしたツタ」からネズミの力を行使することもできるのだ。どうだすごいだろ。……ピンと来ないか。 


 あとは「植物の成長促進」とか「枯死させる」みたいなこともできるみたいだが、この手の奴は規模と消費魔力が比例するみたいだ。だから今は大木をどうこう、みたいなのは無理だと思う。


 他にもわかったこと、確かめたいことが山ほどあるが、まあそれは今はいいとして。


 ――私は体を大きく「変身」され、頭の花を「巨大な蓮の葉」に変えて全身に巻きつけた。


 これでパッと見は「二、三歳くらいの大きさの葉っぱを巻きつけたおかしな子供」になったはず。ここまで暗ければこれでごまかせるだろう。


 あとは二足歩行で歩み寄り――


「――あっ」


 買い物かごを奪うだけだ。


「――ま、待ちなさい。ちょっと」


 強奪した買い物かごを頭に乗っけて走り、振り返る。

 慌てたような声を上げて初老の女性と、手を引かれている女の子が追ってくる――のを確認して、また走る。


 一定の距離を保ち先導する。

 無理しないよう、転ばないよう注意して。


 二人は気づいていない。

 私を中心にした左右2メートルほどの場所から、折り重なるように生えた「巨大な蓮」が頭上にアーチを作り、雨を防いでいることを。


 私と二人が通ったらすぐになくなる屋根である。

 暗いし、誰かに見られても目の錯覚で済むだろう。ほぼ一瞬でなくなるものからね。


 そう、まだまだ少ない魔力ではあるが、「特殊な力を持たない植物」なら意外とできる範囲は広いのだよ。





「――は、はぁ……?」


 まあ、店先で二人の帰りを待っていた、本屋のおじさんには見られちゃうわけだけど。


 目を白黒させてるおじさんに買い物かごを押し付け、私はとっととその場を離れた。


 ――うん、できることが確実に増えたな。






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