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10.平凡なる超えし者、とりあえず切り上げる……






「――今日はこれくらいにしとくか」


 え? 何? 終わり?


「――確かにいきなりすぎる。レンなんかは一緒に経験してきたことが多いから、無理なく徐々に受け入れられたと思うが、アクロディリアからしたら昨日今日からいきなりの新展開で、しかも知らない間に当事者だもんな。そりゃ戸惑いもするよな」


「――別に今更そんなこといいわよ! 早く話しなさいよ! 個人的に気になることも多いし、とっくに聞かずには済ませられない心境よ!」


「――話さないとは言ってないだろ。時間はあるからゆっくりやっていこうって言ってるんだ。どうせおまえが早めに知ったところで、俺がやってきたことがなかったことになるわけじゃないからな」


 それが幸か不幸かは問題だと思いますけどねー。


「――つーかおまえ、これ以上新事実を詰め込んだら、たぶん泣くだろ」


「――な、泣かないわよ!」


 いや、泣くと思う。

 離れてるところから見ている私でも、本物アクロの目がうるうるして見えるし。見ようによってはもう半分泣いてるようなもんだし。カワイイ。


「――それより一つ提案がある。おまえ一回、実家に帰らないか?」


「――実家? なぜ?」


「――おまえの両親が心配してたからだ。さっきは端折ったが、夏の帰省で俺の正体はバレた」


「――はあ!?」


「――正確には、バレてた。俺が何をする間もなくな。つーかおまえが驚くようなことじゃないだろ? あのお父さ、いや、えー……ヘイヴンさん? あの人ヤバいくらいのキレ者だろ。あの人を騙すとか俺にはハードルが高すぎるから」


 ヘイヴン? アクロディリアのお父さんの名前か?

 ゲームには登場しなかったから、私にとっても目新しい情報だ。まあ私が関わるかどうかはわからないけど。


「――さっきおまえも言った通り、俺はおまえとはかけ離れた生活をしてたからな。その辺から裏も取られてたみたいだ。ただ、言い訳じゃないけど、裏を取られてなくても、直接会えばすぐに見抜かれてたと思う。あの人はすげえ。そして俺はあの人だけは絶対に怒らせたくない」


「――……わたくしの父親なんて、仕事を優先して家庭を顧みない、毎年約束しても子供の誕生日に家にいたことがないような、ただのダメなおじさんだけど?」


「――おま……バカ野郎! バッカ野郎が! あ、お父さんに対する認識ってそういう感じ!? 道理で記憶の中に大した情報も気持ちもないと思えば……おまえバカ! バ……おまえバカだろ!」


「――うるさいわね。何なのよ」


「――うるさいのはおまえだ! お父さんおまえのこと心配してたぞ! 領主の仕事もすげーがんばってたし、あんだけのデカい街を不備なく納めててすげーだろ! 並大抵の仕事じゃねーぞ! なんで俺がこんなこと知ってて実の娘が知らないんだよ!」


「――もういいわよお父様のことは。お金さえ渡しておけば家族のことなんてどうでもいいと思っているような人なんてどうでもいいわ」


 ほほう。異世界でも親子ドラマがありますか。……貴族ならさほど珍しくもないか。


「――レン!」


 しかし、何がお兄ちゃんをそこまで熱くさせるのか、冷め切った娘に対して義理の兄だか弟は完全に激オコ状態だ。


「――明日こいつ実家連れてって! どの道報告しなきゃいけないだろ、引きずってでも連れてってくれ!」


「――私があなたから離れるのはまずいでしょう。あなたを止める役目は必要ですから」


「――え? ……俺の信用がなかった……!?」


「――ないですよ。なぜそんな意外そうな顔を? だって勝手に行動して私の知らないところで死んだじゃないですか。あの件に関して、まだ何一つ許した覚えはありませんけど」


 やっぱりお兄ちゃんは「死に戻り」したのか。

 何気に確定事項はまだ語られてなかったんだよな。

 死因というか、どんな事情があってそうなったかが気になるが……


「――しかし一度実家に帰るという提案には賛成です。確か二報告もありますから。だから『三人で』帰りましょう」


「――え……いや、俺、ちょっと、お父さんには会いたくないっつーか……借り物の身体で死んだし……」


「――だったら尚の事、元気な姿を見せに行かないといけませんね」


「――…………あ、いててっ、お腹痛いっ、これちょっとお出かけとか無理っぽいっ」


「――大丈夫ですよ。私が担いでいきますから。なんなら意識がない状態でも構いませんが? 寝ている間にお連れしましょうか?」


「――…………」


 お兄ちゃんが冷や汗だらだら流しながら沈黙してしまった。そんなに怖いのか。えっと、ヘイヴンさん。


「――あんな顔が悪党ヅラなだけの中年の何が怖いのよ」


 娘は平気みたいだけど。





 話が終わったようなので、窓から離れて貴族女子寮の屋上へ登ってきた。


 ふう……長い立ち聞きになってしまった。疲れてはいないが気疲れがすごい。

 私にとっても新事実ばかりだったから、ちゃんと咀嚼しとかないと。


 とりあえずお兄ちゃんは見つけた。

 ここまでの流れもだいたいわかった。

 お兄ちゃんが悪役令嬢になってやってきたことも、表面さらっと撫でた程度には理解した。


 そして一番の収穫は、お兄ちゃんがこの世界に戻りたかった理由がはっきりしたことだ。


 ――お兄ちゃんは、アクロディリアが没落するのを、回避するために来たんだね。


 話をしている姿を見て、すぐにわかった。

 すごく簡単に言えば、好きになっちゃったんだろう。

 気に入ったんだろう。

 アクロディリアも、その周囲にいる人も、もしかしたらこの世界も。


 だから、卒業間近に起こるだろうバッドエンドを防ぐために、戻ったんだ。


 まあ、私はなんでもいいけど。

 元からお兄ちゃんの補助をするためについて来たんだし、手が足りないようなら手を貸すだけだし。本物アクロが可愛くて仕方ないし。レンには添い寝してほしいし。惜しみない協力をする気しかないし。


 さっきの会話の通り、お兄ちゃんたちはアクロディリアの実家に帰るらしいから、私も時間ができたってことでいいのかな?

 実家まで付いて行くのも一つの手だが、生憎他にも気になることはある。


 まず、アルカのシナリオだ。

 あいつが誰と激しい恋愛をしているのかは、すごく気になる。それによっては私の立ち回りも変わってきそうだから。


 それに、因果関係も気になる。

 ゲームでは、アクロディリアは死ぬキャラではない。

 死ぬシナリオがあるのはアルカだけ、それも魔王ルートかハーレムルートのみに限られる。


 ならば、果たして兄の死とアルカは、関係があるのか?


 ありそうな気がするんだよな。

 だってお兄ちゃん、「死に戻り」した直後だと思しき頃、向こうの世界でいきなり魔王ルートのこと気にし出してたからなぁ。あんだけ露骨なら無関係ってことはない気がするよ。


 それに、「戻れた」のであれば、誰かが「アクロディリアの肉体を生き返らせた」のは間違いない。神はよっぽどのことがなければ死者蘇生なんてしないから除外していいだろう。

 ゲームでは、その秘術を使うのは魔王だった。

 たぶん今回もそうだろう。


 だとすれば、やはり因果関係が見えてきそうな気はするが……


 …………


 でもまあ、今日の本気は売り切れだ。

 もう今日はちょっと疲れちゃったし、続きは明日にするか。


 ……方針も見えてきたし、私もやることはやっとかないとまずいよね。






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