原材料
生活密着型ホラー。
今日の夕飯は久しぶりに肉料理にすると、妻から電話があった。
我が家は、私立高校に通う息子二人と、専業主婦である妻の四人家族。
サラリーマンの頼りない安月給では、肉料理は贅沢品とも呼べるものだった。
どうも、近所のスーパーで肉の大安売りがあったらしい。
早速家へと戻ってみると、そこにはハンバーグ、豚カツ、唐揚げと肉料理が盛り沢山であった。
食べ盛りの息子達は一目散に肉にかぶりついている。
当の私も、またとない機会だと思い、年甲斐もなく腹を満たした。
上機嫌の息子達が自分の部屋へと移動し、私は妻への労いの為に、食事の後片付けを行うようにした。
食器洗いが終わり、続けてゴミの掃除を行う。
ふと、肉が入っていたパックが気になった。一体、どのくらいの値段で買えたのだろうか。
パックに張り付いていたシールには100gあたり20円と書いてある。
主婦ではないのでよくわからないが、少し安すぎるのではないか、と思った。
不思議に思って、原材料名を読んでみて、背筋が凍った。
原材料名の末尾に「虫」と書かれているのだ。
こんなもの、クレームどころか、リコールものの騒ぎではないか。
私はパックを持って、妻を問い質した。
「ああ、それ。何かの法律が通って、食べ物の品質基準が下がったみたいで。ガーベッジ品とかっていうみたいなんだけど、安かったわよ」
「虫が入っているのに、買ったっていうのか」
「安いし、おいしいんだから、いいじゃない。食べ物なんて、お腹の中に入ってしまえばみんな一緒よ」
妻は特に気にした具合もなく、あっさりとこの異常な状況を認めてしまっている。
半月前に実施された食品の品質基準緩和については、私も新聞で読んだことがある。
しかしまさか、こんな品質のものが平然と食卓に出てくるとは思っていなかった。
どう見たって、異常ではないか。過去に戻れるのなら反対運動のひとつでも起こすところだ。
むしろ、法案が通っている時点で、この状況が客観的に見れば正常というべきであり、私が異常ということになるのだろうか。
だが、嫌なものは嫌だったので、妻には二度とガーベッジ品を買わないように、きつめに念押しした。
ある日。仕事で疲労困憊だった私に、妻はおつまみとビールを出してくれた。
そのおつまみは、肉の燻製のような見かけで、コリコリとした食感が絶品であった。
「これ、うまいな。何で出来てるんだろう」
すると妻はこう答えた。
「えっと、確か、国産の指だったかな」