違うてしまった。
違ってしまった。
↓現実逃避のトリップ↓
同性の俺から見ても、雅は綺麗な顔をしている。
瞳は色素の薄い鳶色。
睫毛は男にしてはかなり長い。
長い髪は何故か、穏やかな淡い翡翠色。
顔は、そう、歌舞伎の女形みたい。
……あ。
先に言っておくけど、恋愛的な意味でこんな描写をしている訳じゃありませんからね。
俺は文系人間ですから、こういう美しいものを見るとついつい、大げさな描写を思いついてしまうだけです。
なんだか信じてもらえて無い気がしますが、それでもいいです。
で、話を戻します。
「俺だけど俺じゃないって? 」
「なんちゅうか、その。
顔とかは美玲なんやけど、中身だけ違うてしまったみたいな違和感があるんよ 」
雅の瞳には、不安と疑問がありありと見てとれた。
俺の脳裏では、ストガさんの言葉が、表情が渦巻いていた。
うまい言葉が出てこなかったので、冷めたコーヒーで口を湿らせながら、雅の次の言葉を待った。
やや骨ばった指で細い顎をつまみ、雅はココアの入ったカップを見つめていた。
片眉を吊り上げている。
勉強するときなどによくやる、雅の癖だ。この癖が出たという事は、言葉を、応えを探しているのだろう。
良川なら絶対に何か知っているに違いないのに、コイツはコイツで、ぽかんと虚空を眺めている。
こういう良川の癖は、本当に何も考えてない時か、考えていても俺には到底理解できない事を考えている時に出る。
何か言うだけ無駄そうだ。
底の方に溜まったコーヒーを飲み干したのと、ほぼ同時だった。
「かくれんぼ、しとってな、俺がオニで美玲が隠れたんよ。
夕方になっても俺、美玲を探せなくて。
次の日に美玲が帰ってきたんけど……。
でもな、それな、美玲やないって。
今まで言えへんかったけど、昨日の動画見て確信したわ。
あの声の感じ、俺の知ってる方の美玲やった」
躊躇いを含んだ雅の言葉に、俺は頭をガツンと殴られた心地がした。
「冗談だろ」
「冗談ゆうてる顔に見える⁈ 」
いつもふざけた会話しかしないだけに、雅のこの真剣な表情には驚いた。こんな顔も出来るのか。
って、そこじゃない。
「その……全く覚えねぇんだけど」
「ホンマ? あの美玲のこと、知らんの? 」
「全く」
そう言うと、雅は俺を不可解な物を見るような目で見た。
友達から、一気に不可思議生物になってしまった俺。
もしかして、今まで違和感という違和感もなく過ごしてきた俺がおかしいのか?
……かくれんぼ。
俺の頭の中では、昨日のストガさんの言葉が反芻される。
雅は何かにハッと気が付いて、慌てて良川の方を向いた。
「なぁ、良川、もしかして自分、美玲を連れて帰ったんとちゃうの?
そんとき、気がつかなかったん? 」
まるで縋るような雅の言葉と表情に、俺は少しギクリとした。
あんな捨て犬みたいな顔で見られたら、俺は平静を保てないだろう。
なのに、そこはやっぱり28歳独身良川五月。
切なげに震える睫毛も、不安が漏れ出す唇も、何も見ていない。
見ているのは、虚空に映る自分の世界だけのようだ。
「気付かなかった……」
「は 」
雅の顔には、不信感が湧き出た様に見えた。
「雅がそんな事を考えてたなんて」
良川は鈍い光の差す黒い瞳で雅を見つめた。
それは、捉えようによっては、雅を軽蔑している様に見える、冷たい瞳だった。
雅の口が結ばれたのを確認してから、良川は俺を見た。
「そろそろ、皆が気付く頃だろうから、言うよ」
「え」
「知りたいでしょ、ソフィストのことも、自分のことも」
知りたい。
またしても、役に立たない好奇心が優ってしまった。
が、それは雅も同じな様だった。
口を引き結び、俺らは良川の唇が紡ぎ出す言葉を見ようとした。




