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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第一章 最初の任務
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09.退魔の武器

 ナイヴィスが担当した棚には、長剣が収められていた。

 帳簿なのか名簿なのか判然としない(つづ)りを手に、言われた項目を点検する。


 何か囁くような声が聞こえるような気がするが、気のせいで済ませられる程度の(かす)かなものばかり。勿論(もちろん)、何を言っているのか、内容は全くわからない。

 ナイヴィスは黙々と作業に集中した。


 〈あ、やっと来た。ね、そこのあなた、私、鞘が外れそうなの。ちゃんとしてくれない?〉


 不意に声を掛けられた。

 場違いな程、活き活きとした女性の声だ。


 作業は残り三段。

 上から二段目の剣が少しずれ、鞘と柄に隙間が生じていた。

 柄頭(つかがしら)の【魔道士の涙】は、菫色(スミレいろ)に輝いている。隙間以外の問題はなさそうだ。


 〈ね、自分じゃ直せないから、助けてくれない?〉


 随分、馴れ馴れし……いや、気さくな英雄だ。

 余りにはっきりした声で、注意を受けていなければ、生身の女性に話しかけられたと思うところだ。


 〈ずっと、直してくれるのを待ってたの。ね、あなたなら背も高いし、届くでしょ?〉


 女性の声は、期待に弾んでいる。

 ナイヴィスは左右を見た。

 通路には誰も居ない。棚に遮られ、上司も同僚も見えない。

 綴りを見た。「舞い降りる白鳥の魔剣ポリリーザ・リンデニー」と記されている。


 ……ふーん。戦闘じゃなくて、呪いの解除に使うんだ。


 ナイヴィスは、上司の注意を忠実に守り、聞こえないフリをした。


 〈(ひど)い……国の為、民の為、身を()にして戦ってきた私を、実戦用じゃないなんて……〉


 先程の元気が消え、語尾が震える。菫色の光も、心なしか弱くなった気がした。

 ナイヴィスは、気付かないフリでやり過ごし、次の段を見る。


 剣が【魔道士の涙】を(かげ)らせ、女性の声がすすり泣き始めた。

 「あ、す、すみません、そんなつもりじゃ……」


 〈ホントに申し訳ないと思うんなら、鞘にちゃんと収め直して〉


 「は、はい」

 棚に綴りを置いて手を伸ばし、右手を(つか)、左手を鞘に添える。


 カチリ。


 小気味良い音を立て、きちんと鞘に納まった。


 〈ありがとうね、親切な坊や。気に入ったわ〉

 声はすっかり機嫌を直し、【魔道士の涙】も元の明るさを取り戻した。

 「あ、いえ、こちらこそ、失礼を……」

 腹の底が、ひやりと冷える。


 今になってやっと、さっきの思考を読まれていたことに気付いた。続いて、もうひとつ、もっと洒落にならない問題にも気付く。


 ……手が、離れない。


 指を開こうとするが、自分の手ではないように、びくともしない。

 冷や汗が流れた。

 棚から手を降ろす。当然、剣もついてくるが、意外に軽い。

 左手で、右手の指をこじ開けに掛かる。石化したかのように、微動だにしない。焦りと困惑で(てのひら)に汗が滲む。


 「ナイヴィス、さっさとせんか。後はお前だけだぞ」

 上司の声に、ナイヴィスは(つか)を握った姿勢のまま、硬直した。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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