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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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87.三頭目の獣

 二人はほぼ不意打ちで、魔獣に術を喰らわせた。

 頭部を【光の槍】が貫き、【刃の網】が絡め捕る。

 トルストローグが【灯】を点した。


 ……頭が、ふたつも……

 〈魔獣だから、物質界には居ない種類ばかりだし、カラダは物質界の真っ当な生き物より、ずっと頑丈よ〉


 青白い魔法の光に、異界から来た獣の姿が浮かび上がった。


 狼に似た灰色の獣。

 頭部はふたつ。六本の足それぞれに鉤爪がある。不機嫌に揺れる尾は、金属光沢のある蛇だった。

 片目が潰れ、毛皮は血に濡れているが、地をしっかり踏みしめ、残りの目で人間を睨みつけている。


 ワレンティナが剣の(つか)を引き絞る。傷付いた頭部に【刃の網】が食い込んだ。


 魔獣が跳んだ。

 ワレンティナは避けられず、押し倒された。

 集中が途切れ、【刃の網】が剣に戻る。解放された双頭が、細い首に迫る。ワレンティナは逃れようともがくが、肩と腕を押えられ、動けない。


 トルストローグが剣を腰溜(こしだ)めに構え、体ごと魔獣の首にぶつかった。


 「うおぉぉおおぉおぉおッ!」

 互いに咆哮を上げ、睨み合う。


 トルストローグが剣を(ねじ)りながら、じりじりと押す。首筋を剣で(えぐ)られ、魔獣の血がワレンティナに滴る。


 ワレンティナは、両足を縮め、魔獣の胸を蹴り上げた。軍馬程もある双頭の魔獣は、少女の蹴りではびくともしない。


 トルストローグが更に押した。ソール隊長が、魔獣の背後に回る。


 「ティナ……」

 ナイヴィスの口から、(かす)れた呟きが漏れた。剣の(つか)を握る手が硬直する。

 女騎士は何の助言も与えてくれず、沈黙していた。体の震えが止まらない。


 隊長の剣が、尾の攻撃を(かわ)し様、蛇を斬り落とした。

 「ギャンッ!」

 魔獣が悲鳴を上げ、振り向いた拍子に肩から足を踏み外す。ワレンティナはその機を逃さず、自由になった右手を突きつけ、力ある言葉で叫んだ。


 「想い磨ぎ 光鋭き槍と成せ!」

 灰色の顎を貫き、頭後部へ突き抜けて消える。頭部がひとつ、力なく下がった。


 「おぉおおぉらぁああああぁッ!」

 トルストローグは更に力を籠め、剣を押す。少女の上から、魔獣が押し退けられ、倒れた。地に刺し止める勢いで、剣に全体重を乗せて押す。


 ワレンティナが、剣を支えに立ち上がった。鎧の肩と腕は爪で裂かれ、白い肌が血を滲ませていた。荒い呼吸を整えながら、魔獣に強い視線を向ける。


 「ナイヴィス! 行ったぞ!」

 突然、隊長に呼ばれ、ナイヴィスは背筋を伸ばした。


 ……何が……?


 〈ここからじゃ見えないけど、尻尾じゃない?〉

 「えっ……えぇッ?」

 震える手で、鞘を外す。


 薮から銀色の蛇が跳び出した。【灯】に鱗をきらめかせ、流れる血を尾のように引き、宙を飛ぶ。ナイヴィスたちの手前で、何かにぶつかった。弾かれて草刈り跡に落ちる。血のこびり付いた【真水(さみず)の壁】が、青く色付いた。


 「風よ、燃え上がる氷の上を渡れ」


 隊長の足許から冷気が起ち上がる。

冷気は鋸刃(のこば)型の軌跡を描き、地を走った。灰色の魔獣を上半身と下半身に分断し、後ろの大木を凍らせて止まる。

 傷口が凍りつき、血を流さないまま、魔獣の全身が灰となって崩れた。


 剣が地に突き立ち、トルストローグが勢い余って転ぶ。

 壁に当たって落ちた蛇も、同時に動かなくなった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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