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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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86.一難去って

 こんな場所で夜を明かすなんて、今まで考えたこともなかった。

 戦いの興奮が()め、恐怖感が足許から這い上がって来る。


 こんな所で夜明けを待つより、安全な場所に移動してから、ムグラーを休ませた方がいいのではないか。


 ナイヴィスにはそう思えてならないが、隊長がここで待機と命令し、女騎士もそれに異を唱えないところを見ると、これが正しい行動なのだろう。


 ナイヴィスは、意識を失った重傷者を連れて【跳躍】したことがない。いや、これ程の怪我を見たことすらなかった。


 ムグラーの様子を(うかが)う。

 心なしか、先程より顔色が良くなった気がする。


 ワレンティナとトルストローグは、目を閉じているだけで、眠ってはいないようだった。いつ、何が襲ってくるかわからない。


 ナイヴィスはふと、ワレンティナに言われたことを思い出した。

 「隊長に休めって言われたら、ちゃんと身体を休めないとダメなんだからね」


 あの時はわからなかったが、休める時に休み、次に備えると言うことだったのだろう。


 ガサリ


 物音に心臓を鷲掴(わしづか)みにされた。全身が硬直し、全く動けない。


 「来た」

 隊長が鋭く声を発する。二人が身を起こした。


 〈落ち着いて。【真水(さみず)の壁】があるから。ゆっくり振り向きなさい〉


 震える手で、柄に触れる。ポリリーザ・リンデニーに握り返され、震えが治まった。

 錆びた蝶番(ちょうつがい)のように首が(きし)む。ぎこちない動作で、肩越しに振り向いた。


 木立の闇。【灯】の範囲外で何かが動いている。

 ワレンティナとトルストローグが、抜き身を手に【真水(さみず)の壁】の前へ出た。


 「ナイヴィス、ムグラーを守れ」

 隊長も、森へ向かう。


 ナイヴィスは、地面に手をつき、身を(ねじ)って体ごと向き直った。膝が笑って立ち上がれない。口の中がカラカラに乾き、返事の声もかすれて消えた。


 森の中で何かが動いている。

 仄暗(ほのぐら)い【灯】に葉が揺れ動くのが見えた。

 それは、地面を掻いてしきりに何かを食べている。


 ……狼か何かが、魔獣の死骸を食べているんでしょうか?

 〈魔法できっちりトドメを刺して、灰になるの見たでしょ〉


 あっさり否定された。

 三人が木々を盾に、足音を殺して、それに近付く。

 闇にナイヴィスの目が慣れたのか、それが一回り大きくなったように見えた。


 〈あなた、さっきこのコの傷を洗い流して、水はどこへ捨てた?〉


 その問いに頭が真っ白になる。

 思い出せない。

 あの時、夢中で処置をした。


 ……水……どうしてました?

 〈森に捨てたから、魔獣が嗅ぎつけて来たのよ。隊長さん、ちゃんと見てたのね〉


 隊長とワレンティナが、それぞれ呪文を唱える。


 〈お葬式で遺体を灰にするのは、魔物の餌にしない為なの。

 今のあなたは火の魔法が使えないし、あの状況じゃ、そんな余裕なかったから、言わなかったけどね。今度からちゃんと、焼いてから捨てるのよ。人間に限らず、魔力ある者の身体は、血も髪も爪も全部……〉


 ナイヴィスは愕然とした。何となくそう言うものだと思っていたことに、そんな理由があったとは知らなかった。


 〈今回は、魔獣討伐の任務だから、これで良かったんだけどね〉


 明るい声で付け加えられたが、ナイヴィスの胸の罪悪感が薄れることはなかった。

 ムグラーの血を捨てたまま、ここを離れていれば、それを土ごと喰らい、より強くなった魔獣を野に放ってしまうところだった。


 隊長がここに留まる判断をしたのは、ムグラーの容体のこともあるが、魔獣に力を与えない為だったのだ。

 判断の甘さに(ほぞ)を噛む。


 〈あなた、実戦は初めてなんだから、そんなの仕方ないでしょ。色々失敗しながら経験を積んで、身に着けるものなんだから〉


 その失敗が命に関わるなら、なるべく失敗しない方がいいに決まっている。知っていれば、無造作に血を含んだ水を捨てたりしなかった。


 武官の仕事嫌さに勉強しなかった後悔が、ナイヴィスの胸を締め付ける。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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