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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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83.仲間を守る

 「ムグラー……」

 ナイヴィスは、先輩騎士の傍らにしゃがみ、泣きそうな声で呼び掛けた。

 怪我人の口から呻き声は漏れるが、意識が朦朧(もうろう)としているのか、呼び掛けに対する明瞭な返事はない。


 〈あぁ、ほら、私を鞘に収めて、荷物拾って、薬出して〉


 何も考えられず、言われるままに行動する。

 こんなに血を流している人を見たのは、初めてだ。

 先日の三界の魔物も血を流していたが、人の形を保った魔物なので、その苦痛に共感することはなかった。


 今、ムグラーが傷付き倒れている。


 寝食を共にし、防禦などの術を教えてくれた。

 年下の先輩は、気弱なナイヴィスをバカにすることなく、何かと気を遣って支えてくれた。


 意識が混濁した状態でも、ムグラーは右手の剣を離さず、傷を左手で押えている。

 荒い呼吸に、腹が上下する。その度に血がどくどくと流れた。


 ナイヴィスは袋の口紐(くちひも)を解こうとするが、手が震え、紐を掴むこともままならない。


 〈袋の本体に手を添えて、上へ這わせて……そうそう。紐の根元から横へ引いて〉


 蝶結びを(ほど)き、袋の口を緩めるだけで、無駄に時間を食ってしまった。気が焦るばかりで、身体は硬直して動きがぎこちない。

 袋を逆さに振って中身をぶちまけ、傷薬の薬壺を手に取る。


 〈先に傷を洗ってあげて〉


 ナイヴィスは、恐る恐るムグラーの手を()けた。

 草地を転がったせいか、泥と草の切れ端がこびり付いている。鎧は血に染まり、元の色も呪文の刺繍もわからなくなっていた。


 泉に呼びかけようとしたが、顎が強張り、口が開かない。


 〈ゆっくり息を吸って、細く、長く吐いて……口、動くわね? じゃあ、力ある言葉も唱えられるのよ〉


 半開きになった口の中で、歯の根が合わず、ガチガチ鳴る。

 ナイヴィスは大きく息を吸い込み、泉と向き合った。一息に力ある言葉で命令する。


 「や……やさっ……優しき水よ、我が声に……わっ……我が意に依り、起ち上がれ。

 た、ただ、漂う力、流す者、分かつ者、清めの力、炎の敵よ。

 起ち上がり、我が意に依りて、洗い清めよ」


 震え声でも、水はいつも通りに起ち上がった。

 ナイヴィスの命ずるまま、泉の水が意思を持つ生き物のような動きで、ムグラーの身体の汚れを洗い流す。


 血を含んだ水を木立の間に捨て、改めてムグラーを見た。

 鎧の破れ目から、深く(えぐ)られた傷が(あら)わになっている。

 薄黄色い層が(うかが)えるが、内臓には達していない。見る見る血が(にじ)み、傷が赤で満ち溢れ、再び地を濡らした。 


 〈大きい傷を治すの、初めてなのね。でも、教わった通りにすれば大丈夫。まずは【止血】よ〉

 女騎士がナイヴィスの記憶を調べ、指示する。


 ナイヴィスは、言われるまま傷に触れ、呪文を唱えた。

 「身のほつれ 漏れだす命 内に()め 澪標(みをつくし) 流れる血潮 身の水脈(みお)巡り 固く閉じ 内に流れよ」


 傷は塞がらないが、この部位からの出血が止む。

 術に集中する内に、声の震えが治まった。ナイヴィス自身は気付いていないが、女騎士は把握し、次の指示を出す。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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