表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/91

82.存在の本質

 雄牛が、【紫電の網】に締めあげられたまま、力任せに立ち上がった。隆起した筋肉に【網】が食い込む。血で地面を青黒く染めながら、鼻息荒く足を踏ん張る。

 雄牛はワレンティナに狙いを定め、角を赤熱させた。


 従妹(いとこ)もムグラーに(なら)って【不可視(みえず)の盾】を展開する。


 〈従妹ちゃんが引きつけてくれてる間に、一気に叩くのよ!〉

 「はいッ!」


 脳裡(のうり)に次の動作を示され、ナイヴィスは力強く応えた。

 魔剣となった女騎士の手と、魔剣使いナイヴィスの手が、ひとつに重なる。


 ナイヴィスの腕が、流麗な軌跡を描き、雄牛の横腹を紙のように切り裂いた。魔剣が、異界から迷い出て実体を得た魔物の「存在の本質」を断つ。


 肉を断つ手応えはなかった。

 緑色の厚い皮膚、隆々と盛り上がり固い筈の筋肉の塊、臓物、骨すらも、何の抵抗もなく両断された。


 存在の核を破壊され、魔獣のこの世での肉体が崩壊する。

 一滴の血も流れず、次の瞬間には灰となり、さらさらと風に散った。

 あまりのあっけなさに、ナイヴィスは呆然と立ち尽くす。


 〈存在の核を壊したから、この世の肉体も、元居た世界の体も、消滅したのよ〉


 ……えっ、じゃあ、あの牛はどうなったんです?

 〈あれは三界の魔物じゃなくて、ちゃんと魂があるから、ふたつの世界で同時に死んだだけよ〉


 女騎士が、ナイヴィスの脳裡に「世界」と「存在」の模式図を示す。


 物質界は所謂「この世」、冥界は俗に言う「あの世」。その間を繋ぐ幽界。

 存在は、その核によってひとまとめにされている。魂と幽体、肉体が「存在の核」で串刺しにされて繋がっている。


 肉体から串が抜ければ、物質界での死。

 真っ当な生物は、幽界を経て冥界へ赴く。


 魔物は、元居た幽界へ戻る。

 魔法や魔剣など魔法の武器で倒すと、魔物も死に、冥界へ送られる。


 三界の魔物は、その串を自らの意思で自在に抜き差しし、三つの世界を自由に行き来する。

 核の移動で存在の位相をずらし、別の世界に身を隠す。監視の目を逃れ、秘かに獲物を捕食するのだ。


 魂がない為、肉体や幽体を破壊しても、すぐに再生する。

 退魔の魂で「存在の核」を破壊しない限り、消滅せず、一時凌(いちじしの)ぎにしかならない。


 〈普通の魔物や魔獣なら、この世の肉体を壊すだけでも無害化できるから、安心して〉


 知っているつもりで、知らなかったことを一気に教えられ、頭が痛くなった。

 騎士となった今、退魔の魂の使い手となった今、それらと戦わなければならないのだ。


 トルストローグが、濃紺の魔獣の腹の下に潜り、剣で突き上げた。そのまま、尾に向けて振りぬき、腹を裂く。流れ出る血と苦痛にうねる胴を避け、横腹を斬る。


 濃紺の魔獣は、その身の長大さ故に動きが鈍い。

 頭部に近い部分だけは素早く動くが、樹木に巻き付く胴は攻撃の手段も持たず、隙だらけだった。


 隊長が頭部を引き付け、【光の槍】で貫く。

 ワレンティナも森へ入り、【鋼の刃】で魔獣の胴を絡め取って刻んだ。


 倒れたままのムグラーが低く呻く。ナイヴィスは我に返り、駆け寄った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
【関連が強い話】
野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ