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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第一章 最初の任務
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08.魔道士の涙

 トルストローグは今年の一月、部隊最年少のワレンティナと共に、騎士の叙勲を受けたばかりだ。


 早い者は十四、五歳で叙勲を受ける。

 ムグラーも十四歳で叙勲を受け、正騎士となって今年で五年。


 トルストローグはそれまで、地方の町や村で遺跡の調査や旅人の護衛をして暮していた。

 その腕を認められ、騎士に取り立てられたのだ。

 二十五歳。ナイヴィスより二歳下だが、ずっと経験豊富だ。


 今も、畑に残された巨大な足跡の向きを見て、逃げた方向を正確に追っている。

 ワレンティナがあれこれ質問し、追跡のコツを教わりながらついて行く。

 ナイヴィスは、足跡の追跡をしたことがない。経験者に任せることにし、黙ってトルストローグの後に従った。


 七月の太陽が、カボチャ畑にくっきりと影を落とす。

 鎧の【耐熱】で、暑さは感じない。


 ……なんで、こんなことになっちゃったんだろう?


 歩きながら、あの日のことを思い返す。


 退魔の(くら)に収められた剣、槍、弓……その全てが、元は人間の英雄だ。

 儀式によって、自らの魂と結びついた呪具で魔物を倒し、寿命を終えた騎士たち。


 魔力を持つ者を火葬すると、骨と魔力の結晶が残る。

 大きさは生きた年数に比例し、千年近い天寿を(まっとう)うした長命人種(ちょうめいじんしゅ)ならば、子供の拳程にもなる。色、残留する魔力の強さと量、性質は生前のそれによる。


 その結晶は【魔道士の涙】と呼ばれる。


 【魔道士の涙】は、本人の遺志により、道具に加工されることもあった。

 本人の魂を封入することも可能だが、輪廻(りんね)(ことわり)から外れる為、余程の事情がない限り、行われない。


 この(くら)の武器には全て、魂を封入した【魔道士の涙】が()め込まれている。


 つまりこの(くら)は、生前、自らの全存在を「三界(さんかい)の魔物」の打倒に捧げることを誓い、武器となった騎士たちの墓所でもある。


 巡回中の警備兵が退魔の庫の傍を通ったら、話し声が聞こえた……などと言うのは日常茶飯事。いや、当然だ。


 「退魔の魂の方々は姿を変え……まぁ、第二の人生を歩んでおられる。待機に退屈しておいでのお方もいらっしゃる」

 ナイヴィスたち事務官は、固唾(かたず)を飲んで上司の話に耳を傾けた。


 「話し声が聞こえることもあるが、返事はしないように」

 「何故ですか?」

 先輩の質問に、上司は待ってましたとばかりに答えた。


 「退魔の魂を使いこなすには、戦士としての技量の他に、特別な適性も必要だ。うっかり返事をしようものなら、大変なことになる。諸君らは、文官の分を(わきま)えて、くれぐれも返事をせんように」


 彼らは命を終えた後も、武器となり三界の魔物と戦い続けることを選んだ騎士の(かがみ)だ。

 そんな立派な英雄を無視するのは、失礼ではないか……

 そんな空気が流れたが、「大変なこと」の内容について、突っ込んだ質問をする者はいなかった。


 ……毎年、関係ない部署が点検するのって、お墓参り的な意味でもあるのかな?


 ナイヴィスは、過去の英雄を思い描きながら、上司に続いて(くら)に入った。

 同僚たちも同じ気持ちだったのか、口々に挨拶し、後に続く。


 武器庫の中は、淡い光に照らされていた。

 壁際や棚の武器……その【魔道士の涙】が、ぼんやり輝いている。赤、橙、黄、黄緑、緑、青、菫……様々な光に照らされた庫内は、想像していた墓所の辛気臭さとは、無縁の場所だった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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