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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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78.巨牛と戦う

 「来た」

 ムグラーが、更に【白銀の網】を広げる。【灯】の範囲内に緑の巨体が現れた。


 まず、太い二本の角。雄牛に似た頭部。筋肉の盛り上がった肩。太い前脚。(ひづめ)は手桶程もある。

 魔獣が一歩踏み出し、足を上げる。踏まれていた枝が勢いよく跳ね上がり、元に戻った。


 〈図体は大きいけど、まだ、少ししか魔力のあるものを食べてないのね。一応、実体はあるけど、スカスカ。体重は軽いみたい〉


 魔剣が言うように、巨大な足で踏まれた灌木(かんぼく)は、枝がしなるだけで折れていない。


 外見は巨体で筋骨隆々だが、やわらかいらしい。

 木々の隙間をふにゃりとすり抜け、近付いて来る。固体と液体の中間的な動きで、泉の手前まで出てきた。

 木々の間で立ち止まり、こちらの様子を(うかが)う。荒い息遣いに混じり、(よだれ)(したた)った。


 〈落ち着いて、【網】を消しちゃダメよ〉


 「……はい」

 声に出して答えた瞬間、魔獣が身を躍らせた。巨体に見合わぬ素早さで、手近のムグラーに襲いかかる。


 ムグラーは両手を広げたまま、横へ跳んだ。【網】が更に広がる。

 魔獣は、先程までムグラーが立っていた場所、【白銀の網】の中へ飛び込んだ。【網】に掛かっても、巨体の勢いは止まらない。

 二人は【網】を掴んだまま引っ張られる。体重こそ軽いが、力は強い。踏み留まれなかった。


 〈【網】を放して、私を抜きなさい〉

 「えっ、で、でも……!」


 ムグラーが、魔獣の背後を回り、ナイヴィスに駆け寄る。【網】が一周すると、ムグラーも剣を抜いた。ナイヴィスも慌てて、魔剣を鞘から外す。

 魔獣は泉の縁、ギリギリの位置で止まった。首を巡らせ、散開する人間を値踏みする。


 「(おも)()ぎ 光鋭き槍と()せ」

 「夢醒(ゆめさ)まし 石よ意志持ち 地より出で 頚木(くびき)(のが)れて 地より降れ」


 魔獣が狙いを定めるより先に、隊長とワレンティナの術が発動した。草刈りをしたばかりの地面から、石の雨が降り注ぎ、土煙が上がる。


 泉越しに飛んだ【光の槍】が、魔獣の眉間を貫いた。

 「やったか?」


 元よりこの世に在る真っ当な生物とは、体の造りが違うらしい。魔獣は苦痛の咆哮を上げるが、倒れはしなかった。乱れた土に青黒い血が流れる。

 地を揺るがす咆哮。驚いた鳥が羽音を立て、あちこちから飛び立った。

 夜の森がざわめく。


 魔獣の姿は雄牛に似ているが、口から覗く鋭い牙は、肉食獣のそれだ。

 のっそりと振り向く。【光の槍】を放った隊長ではなく、【白銀の網】を掛けた二人に向き直った。足に【網】が絡みつく。


 ムグラーがナイヴィスを背に(かば)い、緑の巨体と対峙(たいじ)する。


 〈三界の魔物じゃないんだから、自力でなんとかなさい〉

 「えっ、そんな……ッ!」


 「ナイヴィスさん、落ち着いて。【網】で動きは鈍ってます。結界に戻って下さい」

 ムグラーが振り向かずに指示する。


 ナイヴィスは言われるまで、簡易結界の外へ引きずり出されていたことに気付かなかった。慌てて戻る。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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