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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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73.新しい家族

 森の土は思いの(ほか)、やわらかかった。火を焚いたからか、虫も居ない。

 空の明るさと不安で眠れないと思っていたが、そうでもなかった。慣れない森林内の移動と草刈りで、すっかり疲れていたようだ。いつの間にか意識を手放していた。


 「お兄ちゃん、交代よ」

 ワレンティナの声に起こされた。


 日が傾き、影は伸びているが、まだ夕方ではない。二、三時間は眠っただろうか。二交代で、最初の休みは隊長、ムグラー、ナイヴィスだった。


 ワレンティナは髪が汚れるのも気にせず、ナイヴィスが寝ていた跡に横たわった。

 泉で洗えば済むとは言え、ナイヴィスは従妹(いとこ)の豪快さを年頃の少女として如何なものか、と心配になった。


 〈あなたは大人の男性として心配だわぁ〉

 ムッとしたが、ナイヴィスには反論できない。


 幼い頃は、外に出ることすらできなかった。


 出られるようになってからも、他人が恐ろしく、親の影に隠れてやり過ごした。

 身内はナイヴィスの事情を知っているので、ナイヴィスも安心して接することができた。

 他人と話ができるようになったのは、ナイヴィスが十八歳の頃だ。


 長兄の結婚が決まった。

 兄嫁予定の女性が、その両親と共に挨拶をしに来た。

 兄と婚約者はずっと外で会っていて、この日が家族との初顔合わせだ。

 家族として当然、ナイヴィス……三男のサフィール・ジュバルも同席させられた。


 サフィール・ジュバルは自宅で、他所の大人と会うのは初めてだった。しかも、一度に三人も。これまで、家は家族だけの、絶対に安全な場所の筈だった。


 祖父母と両親と兄姉も一緒だったが、(てのひら)にイヤな汗が(にじ)んだ。


 三人とも温厚で、小春日和の中庭のような人物だった。

 長兄から事情を聞いていたのだろう。無口な三男に何かと気を遣ってくれた。


 それでも、家に居る「他所(よそ)の大人」が怖かった。

 終始、(うつむ)いたまま、一言も言葉を交わすことなく、結婚挨拶の食事会を終えた。


 その後、婚礼と新生活の準備で、婚約者母娘が度々、雪晶(ナイヴィス)家を訪れるようになった。

 サフィール・ジュバルは、訪問予定日を自室に引きこもって、やり過ごした。


 「兄貴の嫁、優しそうな人じゃないか。そんな怖がってやるなよ」

 見兼ねた次兄に(たしな)められたが、それでも、怖いものは怖い。

 サフィール・ジュバルが答えずに俯いていると、次兄は真剣に首を傾げた。


 「なぁ、ジュバル。お前、おっさんが怖いんじゃなかったのか? 兄貴の嫁、女だぞ?」


 そう言われてやっと、顔を上げた。


 今まで一度も、兄嫁をしっかり見ようともしていなかった。

 ただ、知らない大人が家に居ることが、怖かった。


 何故、他所の大人が怖いのか。全く考えてみたこともない。

 自分では、単に人見知りが激しい性格なのだと思っていた。


 サフィール・ジュバル自身は知らなかったが、家族は「思い出させて、また怖い思いをすると、可哀想だから」と、例の事件について話すことはなかった。


 「兄貴の嫁、優しそうな人じゃないか。何がそんなに怖いんだ?」

 「……わかんない」

 「うん……まぁ、そうか……わかんないのか……」

 次兄は弟の返事に曖昧な顔で言った。


 「でも、これからは、あの人と兄貴は真名(まな)を教えあって、家族になるんだ。それなら、怖くないだろ?」

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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