72.森での野営
「食糧は三日分ある。水も補給できる。ここを拠点に、魔獣の掃討作戦を行う」
隊長が説明を始めた。
村長がまとめた目撃情報によると、魔物は三種類。各一体ずつ。
発見から時間が経っている。既に実体を具えた魔獣と化している筈だ。
幸い、種類は異なる。繁殖はしていないだろう。
村の人口が減り、仕事の対価となる魔力の水晶や食糧などの生産量が減った為、民間の魔物狩りに依頼することができなかった。
騎士団は常に人手不足で、王都へ陳情に行ったが、順番待ちが長く、とうとう今になってしまった。
「なかなか、早期発見、早期駆除とは行かぬものだ」
隊長が苦笑する。
「実体のある奴は、普通の剣で肉体を倒すだけで、幽界に送還できるから、魔獣の方が倒しやすいけどな」
トルストローグが、不安と絶望を顔に貼りつかせたナイヴィスに、笑ってみせる。彼は騎士となる以前、そう言う仕事もしていた。
「……でも、強いんですよね?」
「お兄ちゃん、そんな心配しなくても、私たちがついてるし、お兄ちゃんにはリーザ様がいらっしゃるじゃない」
ナイヴィスは、左腰に吊るした魔剣の柄に目を遣った。
〈三界の魔物より楽よ。村人の安全の確保なら、肉体の破壊だけでも充分だから。本質にきっちりトドメを刺すには、魔法か、魔力を帯びた武器が必要だけどね〉
さっきは散々脅かした癖に、今度はお気楽な物言いだ。判断の基準がわからない。単に怖がる姿を面白がられているのかも知れない。
ナイヴィスの眼は、女騎士への不信に染まっていた。
「ナイヴィスさん、森は初めてなんですよね? 野営のことなんですけど……」
「は、はい。訓練ではまだ、丘陵地しか……」
ムグラーに聞かれ、戸惑いがちに答える。
「森での野営は、草原よりも気をつけることが多いんですよ」
「化け物の類だけでなく、普通の獣にも警戒が必要だ」
続きは、隊長が説明する。
「交代で見張りをして、火を絶やさぬこと、何かの接近に気付いたら、すぐに休んでいる者を起こすこと」
「は、はいッ」
「簡易結界は張ったが、過信せぬこと」
「はい……」
訓練では、結界を兼ねた小型の天幕があった。
今回は、地面に描いた魔法陣の簡易結界のみ。
鎧で護られているとは言え、不安なことこの上ない。
ナイヴィスは直接、地面に横になることにも抵抗があった。
持ってきた荷物は、食糧と水と毒消しなどの応急処置用の薬、呪符、呪符を作る用具類、草刈り鎌。それだけだ。
【無尽袋】があれば、嵩張る物も一度にたくさん運べるが、使い捨てだ。中身を出すと術が切れて、普通の袋に戻ってしまう。
この隊には【無尽袋】を修めた者が居ない。持てる荷物には限りがあった。
「今日から三日間の任務は、魔獣の討伐。仕留められずとも、三日目の夕方には一旦、引き揚げる。魔獣は夜間の方が活発だ。今の内に休み、夜に備えろ」
〈ぶっつけ本番で夜襲なのねぇ。皆とはぐれちゃダメよ?〉




