71.生きる力を
今日の昼は、村人が持たせてくれた堅パンとチーズと瑞々しい野菜だ。チーズの塩気と野菜の甘みに疲れが癒される。
昼食後、刈り取った草を一カ所に集め、隊長が術で燃やした。
範囲を指定された炎と煙は、全く外へ広がらない。青草の山が見る間に灰になる。
ナイヴィスは、火の術を修めていない。炎を安全に扱う隊長に、尊敬の眼差しを向ける。
〈あなただって、練習すれば出来るようになるじゃない〉
……でも、あの、ちゃんとできなかったら……火事が怖いし……
〈皆とはぐれて、一人になったら、どうするつもり?〉
……【跳躍】で村へ戻りますよ。
女騎士は、ナイヴィスの脳裡で小さく溜め息をついた。
〈そう言うことじゃなくって、もっとこう、生きる力を身に着けた方がいいから、ねっ?〉
……ねって言われましても、逃げるのも生存戦略のひとつですよ。
〈いつも逃げられる状況ならいいんだけどね……〉
ソール隊長が灰を水で流し、木立の間に捨てる。
草地だった場所に、ぽっかりと黒土の地面が顔を出した。直径はナイヴィスの身長くらいある。
隊長が枯れ枝を拾い、土に魔法陣を描く。ナイヴィスの知らないものだ。興味津々で作業を見守る。
〈簡易式の魔除けね。今夜はここに泊まるのね〉
魔剣に断言され、ナイヴィスはいきなり不安に襲われた。先日までは、暗くなる前に【跳躍】で村へ戻っていた。
てっきり、今日もそうすると思っていたのだ。
「此の輪天なり 六連星 満星巡り 輪の内 地なり 星の垣 地に廻り
垣の内 呼ばぬ者皆 立ち去りて 千万の昆虫除けて 雑々の 妖退け
内守れ 平らかなりて 閑かなれ」
呪文も、ナイヴィスが初めて耳にするものだ。
〈初歩的な簡易結界よ。【霊性の鳩】の。あなたも覚えといた方がいいわ〉
……後ででいいですか?
〈皆とはぐれない自信があるんならね〉
……あの、さっきから何故、私がはぐれる前提なんですか?
〈あなたこそ、その、はぐれない自信は何なの? 根拠は?〉
……えっ?
女騎士に問い詰められ、ナイヴィスは絶句した。考えたこともなかった。




