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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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70.泉のほとり

 昼頃には、小さな泉の(ほとり)に出た。

 村長の話では、村人が休憩に使っていたと言う。


 ここは日当たりが良く、草の勢力が旺盛だ。

 草刈り鎌が二本しかないので、交代で作業する。


 ナイヴィスは、トルストローグに鎌の使い方を教えてもらった。

 鎌を振るうと、草地のあちこちから、バッタやコオロギが飛び出す。

 ナイヴィスは、その度に息を飲んで硬直した。

 ワレンティナが面白がって、鞘で草地を()ぎ払う。

 我慢して刈り進む内に、全て森へ逃げたのか、しばらくすると、飛び出さなくなった。


 刈り跡と生い茂る部分の差で、成果がよくわかり、達成感が大きい。コツを掴めば、すっぱり切れて楽しかった。

 青草の香も清々しい。夢中で人生初の草刈りをする。


 草刈りに小一時間掛かった。

 「こうしておけば、我々の休息でも、後で村人が利用する時も、過ごしやすいからな」

 腰を伸ばして、隊長が言った。


 ナイヴィスも額の汗を拭い、それに(なら)う。中腰で作業していたからか、腰が痛む。

 鎧のお陰で外気の暑さは感じないが、作業で上がった体温はどうにもならない。ほんの少しの作業だが、疲れ切っていた。


 泉の水を起ち上げ、汗を流す。さっぱりして気持ちいい。

 これまで感じたことのない爽快感に、なんとも表し(がた)い感動を覚えた。


 〈たまには、こう言うのもいいでしょ〉

 ……そうですねぇ。


 〈ところで、不思議だと思わない?〉

 ……何がですか?


 〈どうして、草ボーボーだったの?〉


 ナイヴィスは少し考えて答えた。


 ……魔物が出て、村の人が来なくなって、手入れしなくなったから、じゃないんですか?

 〈あなたって、やっぱり都会っ子なのねぇ〉


 ……それは否定しませんけど、そんな馬鹿にしなくてもいいじゃありませんか。

 ナイヴィスは渋面を作り、左腰に吊るした魔剣に視線を向けた。


 魔剣となった女騎士は、そんな視線を意に介さず、間抜けな魔剣使いに質問を投げる。

 〈森の水場なんだから、鹿とかが水を飲みに来る筈でしょ? おかしいと思わないの?〉


 ……あっ!


 そこまで言われてやっと、異常性に気付いた。

 草刈り前、泉の周囲には獣道すらなかった。背の低い木が疎らに生え、草は大人の腰辺りまで伸び、場所によっては背丈程にもなっていた。


 森の獣が水を飲みに来るなら、獣道が出来る筈だ。

 鹿などに()まれて、草丈はもっと短くなる。鹿の数が多ければ、泉周辺の草が、一本もなくなることもあるだろう。


 〈その場所の本来あるべき姿と、おかしな点、違和感に気付けるようにならないと、生き残れないわよ〉

 ……ムチャ言わないで下さいよ。王都から出たことなくて、森もまだ二回目なのに。


 〈その言い訳を、魔物が聞いてくれるといいわねぇ〉

 魔剣となった女騎士は、ナイヴィスの脳裡(のうり)にニヤニヤ笑う思考を送った。


 〈まぁ、でも、そんなに心配しなくていいわ。いきなり肉体のある三界の魔物に当たったのに、ちゃんとできたんだから。次に何が来ても、大丈夫よ〉


 それの、何が、どう、大丈夫なのか。


 〈ホントは、幽体だけの三界の魔物を退治する命令だったんじゃない? 王女殿下がお守り下さる範囲を、安全にする為の〉


 ナイヴィスは、ソール隊長が命令書を見ながら発した言葉を思い出した。

 「三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)殿下は、三界の眼ではないので、そこそこの魔物を相手にすることになる」


 〈生きながらにして三界の魔物と化した者がいるなんて、あの時、誰も知らなかったんだから〉

 想定外の強敵にも関わらず、適切な対応ができた。

 無理に自力で戦おうとせず、早めに援軍を呼べた。

 女騎士ポリリーザ・リンデニーは、トリアラームルス副隊長と同じ点を褒めた。


 〈今日、近衛騎士が行った東の湿地に、緑の手袋小隊が本来倒す筈だった「穢れ生まれの三界の魔物」がいる筈よ。まだ幽体しかなくて、あれより弱いのが〉


 ナイヴィスは命令書を読んでいないが、隊長の思惑はわかった。

 まず、日の当たる場所で雑妖退治から始めて、次に小さな魔獣。

 ナイヴィスをだんだん慣れさせて、日程の最後に、東の湿地に巣食う「穢れ生まれの三界の魔物」の討伐をする予定だったのだ。


 予想外の場所で、肉体を持つ三界の魔物と遭遇し、緑の手袋小隊は精神的に疲弊してしまった。

 赤い盾小隊が見兼ねて、湿地の三界の魔物を引き受けてくれたのだろう。


 ナイヴィスは自分の臆病さのせいで、隊長と隊員たちに余計な手間を掛けさせてしまったことに、項垂(うなだ)れた。

 〈申し訳ないと思うんなら、もっと気合い入れなさい〉

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用語は、大体ここで説明しています。

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