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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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69.森の虫たち

 「お兄ちゃん、遅れると危ないよ」

 気が付くと、ナイヴィスは十歩ばかり離れていた。

 ワレンティナとトルストローグが立ち止まって待っている。


 ソール隊長とムグラーが、村人から借りた草刈り鎌で、生い茂った草や(つた)を伐り払い、道を作る。

 「まぁ、長い間、人が立ち入ってないから、道も消えてるし、歩き(にく)いからゆっくり行こう」

 トルストローグに、急いでも大した意味はない、と言われたが、ナイヴィスは早く追いつきたくて走った。

 慌てたせいで、蔓草(つるくさ)に足を取られ、転倒する。


 〈たった今、言われたばっかりなのに……〉

 魔剣が呆れる。


 ここ数日は晴天が続いていたが、森の落ち葉はしっとり湿っていた。

 眼の前で、足の多い灰色の虫が何匹も走り去る。

 ナイヴィスは息を呑んだ。全身が硬直する。悲鳴を上げることすらできず、額に脂汗が滲む。

 幸い、今回は両手が空いていたので、手をついて、カボチャ畑でのような顔面強打は免れた。


 魔剣となった女騎士が、半笑いの思念を送る。

 〈あなた、それ好きよねぇ。畑でもやったじゃない〉

 ……別に、好きじゃありませんよ。

 魔剣使いは、頭の中でぶつくさ言いながら、立ち上がった。虫たちが落ち葉の下へ退避し、ナイヴィスの行く手から姿を消す。


 虫への恐怖で硬直したナイヴィスの体が、魔剣の一言で、動きを取り戻していた。

 魔剣ポリリーザ・リンデニーは、ナイヴィスに気取(けど)られないよう、こっそり笑った。


 今度は足元を見ながら、大股に歩いて追い付いた。

 「ムグラーが、この辺にはヤバそうなのは居ないって言ってるから、落ち着いて行こう」

 トルストローグが、ナイヴィスの肩を叩いて励ます。


 ナイヴィスは無言で頷き、辺りを見回した。

 蝉の声は煩いくらいだが、どこで鳴いているのか、姿は見えない。


 大きなトンボが、森の奥へ向かって飛んでゆく。ナイヴィスは、見たこともない巨大な虫に足が震えたが、辛うじて、遅れずについて行く。

 「お、珍しいな。タカヤンマじゃないか」

 「タカヤンマ……?」

 トルストローグの嬉しそうな声に、ナイヴィスとワレンティナが同時に聞き返した。


 「(タカ)みたいに強くて獰猛だから、タカヤンマ。肉食で、虫だけじゃなくてネズミや小さいトカゲとかも食べるんだ」

 ナイヴィスは、タカヤンマが去った方を見て、背筋に冷たい汗が伝った。


 〈何、怖がってんの? 大きいだけで、普通の虫よ。毒もないわ〉

 ……でも、あれ、人間の腕くらいあるんですけど……?


 タカヤンマの体は、太さも長さも、成人女性の片腕と同じくらい。

 頭部は、ギラギラ光る目だけでも、握り拳ふたつ分の大きさ。広げた半透明の翅も含めると、更に大きい。

 虫でありながら、ネズミやトカゲを捕食する上位消費者。虫は、食物連鎖の下位に属する存在ではなかったろうか。


 〈まぁ、指の一本や二本、軽く食い千切っちゃうけど〉

 ……やっぱり危ない虫じゃありませんかッ!


 〈そんな怖がらなくていいじゃない。田舎の男の子が度胸試しに捕まえる程度の虫よ〉

 ……その子たち、無事なんですか?


 〈大抵は無事ね。そもそも、人間くらいの大きい生き物は、アレの獲物じゃないから、捕まえようとしても逃げられることが多いし〉

 ナイヴィスが内心ホッとすると、女騎士はニヤリと笑う思考を寄越した。

 イヤな予感に耳を塞ぎたくなったが、繋がった心に容赦なく伝えられる。


 〈捕まえ方が下手だと、咬まれて指を食い千切られるのよ〉


 想像しただけで、膝から力が抜けた。思わず、手近な木の幹に掴まる。

 〈あ、そこ、危ない〉

 「えっ?」

 手をついたすぐ横、ナイヴィスの手すれすれの位置に、派手な色の毛虫がいた。


 〈毒毛虫よ。どうしてそんなわかりやすいのの(そば)に手をつくの?〉


 「うわぁあぁッ!」

 思わず悲鳴を上げる。

 何事かと前を行く三人が立ち止まり、後ろのトルストローグが駆け寄る。


 慌てて手を引っ込めた。

 各種防禦魔法の掛かった革手袋に守られ、手は無事だ。


 トルストローグはナイヴィスと木の幹を見て、ホッと息をついた。

 「あぁ、毒毛虫か。こいつの毛は柔らかいから、普通の手袋でも防げるぞ」

 「そ、そうですか……ありがとうございます」

 震える声でぎこちなく礼を言い、絶対、木に触るまいと決心を固めて歩きだす。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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