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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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66.空の守り謳

 明けゆく空へ向かい、三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)が朗々と、力ある言葉を詠じている。【歌う鷦鷯(ミソサザイ)】の【空の守り(うた)】だ。


 「日射(ひさ)(かた) 光昇れる (ひむがし)の 一日(ひとひ)の初め

  輝ける 日輪(ひのわ)の道を (あま)(はら)

  蒼き美空(みそら)に (さえ)となる いかなるものも あらずして

  天路(あまぢ)御幸(みゆき) (さえ)がれず 地を()ろしめす ()御稜威(みいつ)

  風の通い() 吹き流れ 雲の通い路 流れ往き 鳥の通い路 翔けりゆく

  日の光 (あまね)く照らす 一日(ひとひ)の守り」


 昇り来る朝日を受け、【道守り】に囲まれた地域に光が満ちる。

 元々、日中は魔物や雑妖の活動が鈍る。

 それを更に弱体化させ、抑える術だ。


 地域住民も安全になるが、討伐の任にあたる騎士たちも大いに助かる。

 ナイヴィスは、広大な領域に護りを行き渡らせる王女の偉大さを、改めて思った。


 「それでは、騎士の皆さん、今日もご安全に」

 王女が朝日のような笑顔で手を振り、緑の手袋小隊と、地域巡邏(ちいきじゅんら)に出る近衛騎士三人を送り出した。

 トリアラームルス副隊長も、王女の傍らに控え、にこやかに見送った。


 近衛騎士の赤い盾小隊は、総勢七名。

 ドヴァーピェーリャ隊長は現在、国外派遣中だ。残りの六人を二組に分け、王女の護衛と、この地域の魔物の討伐に割り振った。


 騎士たちは、畑仕事へ出る村人たちと羊と共に出発し、それぞれの目的地に分かれる。

 村人は、畑や牧草地へ。近衛騎士の赤い盾小隊は、東の湿地へ。


 緑の手袋小隊は、村の北に広がる小さな森へ向かった。

 「あの術は、護りを固める為のものだが、雑妖の発生を抑える効果もある。今日からは、主に魔獣の討伐を行う」

 ソール隊長が歩きながら、魔獣の種類と戦い方を説明する。


 魔物は、何かの弾みで幽界から物質界に迷い込んだ異界の生物だ。

 出現当初は存在が希薄で、霊視力がなければ視えない。

 物質界の生物を捕食することで、この世での存在を確かなものにし、肉体を手に入れ実体化する。


 実体化し、この世に定着した魔物が、魔獣だ。

 本格的にこの世に居着いて、繁殖する。

 魔力を持つものを食べると、その分、肉体が大きくなり、この世での寿命が延びる。


 魔獣は身体が大きい程、強く、長く生きる。

 身体の大きさと寿命には、普通の動物のような種としての上限はない。魔力を持つものを全く食べない個体が居ないからだ。


 魔物は、魔法か魔力を帯びた武器でなければ、倒せない。

 魔獣は、その強さ故、魔法がなければ太刀打ちできない。


 普通の魔物も三界の魔物も「体」の層が厚い程、物質界への影響力が大きく、力も強い。

 この世で生まれた魔獣は生来、肉体を(そな)えているが、異界から来て魔物から()った魔獣より小さく、弱い。


 先日倒した魔獣の群は、大きさから見て、この世で卵から(かえ)ったばかりの幼体だ。

 また、跳び縞のように草食で、特に害のない魔獣も存在する。


 ナイヴィスは一瞬、顔を強張らせたが、歩みは止めなかった。


 〈あら、エライじゃない。やっとヤル気出してくれたのね〉

 ……仕事、ですから。


 なるべく心を鎮めながら、前を向いて歩く。

 隊長とムグラーが先頭を歩き、次にナイヴィスとワレンティナが並び、トルストローグが殿(しんがり)という隊列だ。


 ……どうして、村に居る間に教えてくれないんでしょう? 昨日とか、休日でしたけど暇だったから、説明くらいしていただいてもよかったのに。

 〈あなたが怖がって、夜眠れなくなったら困るからじゃないの?〉


 当然のように言われ、ナイヴィスはぐうの音も出なかった。

 自分でも実際、そうなりかねないと思う。


 ……そんなに危険な魔物なんですか?

 〈見ればわかるのよ。百聞は一見にしかずってね〉

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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