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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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65/91

65.飛翔する燕

 幼いサフィール・ジュバルは、最初は他の何物でもなく、癒しの魔法【青き片翼】の医術を教えられた。


 童歌(わらべうた)のような【癒し】は魔力を収斂(しゅうれん)させず、術者周辺の現世(うつよ)に存在する真っ当な生物の軽い外傷を癒す。

 初歩的な術だが、魔力が強い程、広範囲に強い効力を発揮する。


 友達や家族のちょっとした傷を治すことで、魔力を使うことへの恐れを、少しずつ手放した。


 医術を修めると結婚から縁遠くなる為、子供に教えない家庭も多い。

 カランテ・ディスコロール家は、そうではなかった。


 サフィール・ジュバルがある程度、魔力の制御に慣れると、今度は日々の生活に必要な【霊性の鳩】学派の術を教えられた。


 その次は、その強い魔力を活かし、【飛翔する燕】の術を勧められた。

 【飛翔する燕】学派には天候制御の術もあるが、嵐などの大きな変化をもたらすものはなく、ナイヴィスも安心して学ぶことができた。


 この学派の術は、生まれ日の天候や星巡り、魔力の強さなど、術者に求められる霊的、身体的条件が多く、修められる者は少ないが、社会的な必要度は高い。


 天気予報などで誰かに必要とされ、喜ばれることで、サフィール・ジュバルは少しずつ、生きる自信を回復して行った。


 少しずつ外出の回数も増え、二十歳の頃には、明るい時間帯なら、一人で外出できるまでになった。魔物と同じくらいの年齢の男性への恐怖心も、薄らいでいた。


 誰も、サフィール・ジュバルに成人の儀に行けとは言わなかった。

 両親は、三男坊のサフィール・ジュバルが、一人で出掛けられるようになったことを、手放しで喜んだ。


 近所の人から、官吏登用試験について教えられた。サフィール・ジュバルは、自分の意思で試験を受けることを決めた。


 城で働くようになり、それからの日々は穏やかに過ぎて行った。


 〈あー、はいはい。波風立てて悪うございましたわねぇ〉


 「そう言うつもりじゃ……いえ、あの……正直、参ったなって、思いましたよ……」

 思わず口に出し、取り(つくろ)おうとしたが、魔剣とは心が繋がっていることに気付き、ぶっちゃけた。


 〈でも、私の声に応えたのは、あなたよ?〉


 この数カ月、触るんじゃなかった、と言う苦い後悔が何度も胸に湧き上がっては、でも仕方がない、と言う諦めに消えている。


 ナイヴィスは、村を囲む土塀に視線を向けた。

 夏の日差しを照り返し、白っぽく見える。

 石盤と共に村人の【魔道士の涙】が収められ、村を守っている。


 土塀と魔剣。

 防禦と攻撃。


 役割が違うだけで、目的は同じ。この国の民を守ることだ。


 〈いい所に気がついたのね。そう。同じ。私とあなたも、この土塀に眠る村人たちも、みんな同じなのよ〉

 ……この人たちは、魔物と直接戦ったりはしませんけどね。


 嬉しそうに言う魔剣に、ナイヴィスはわざとらしく溜め息をついてみせた。

 村の外は広大な丘陵地。青空の(もと)、畑と牧草地が続き、遥か南にはムルティフローラを囲む山脈が、連なっている。


 ナイヴィスは、王都の外へ出て初めて、この空の広さに気付いた。

 家に囲まれた中庭の四角い空ではなく、三界の魔物を閉じ込める為の城壁に切り取られた空でもない。


 山脈の上にも外にも大空は続き、どこまでも広がっている。

 小鳥が一羽、風の精が(たわむ)れる澄み切った青空を渡って行く。


 ナイヴィスが望めば、季節を渡り、風に乗って飛翔する燕のように、どこへでも行けるのだ。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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