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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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64.人をやめる

 ナイヴィスは二人を見送った後、木陰に足を向けようとして、やめた。

 日当たりのいい場所を通り、村の門の前で立ち止まる。


 〈木の下が怖くなっちゃったんだ?〉

 ……えぇ、まぁ……

 魔剣には誤魔化しようがないので、(うなず)くしかなかった。


 村を守る土塀は、様々な防護の術で強化されている。術を維持するのは、かつてこの村で暮していた者の【魔道士の涙】だ。

 土塀は、村の共同墓地でもある。


 ……たった一人のせいで、村が滅びかけるなんて……


 改めて、背筋が凍った。


 〈性根の腐った人間が、三界の魔物の出す瘴気(しょうき)に触れて、その心の通りの姿になったのが、新たに生まれる三界の魔物よ〉


 あの姿が、あの男の心の姿なのか、とナイヴィスは肌が粟立(あわだ)った。

 胸から上は、普通の中年男性。本人はその捻じ曲がった心以外、特筆すべき点のない凡庸な男なのだろう。


 その下は、薄っぺらな胴と足。中身のないものを薄く伸ばして大きく見せ掛けて、精一杯、周囲に虚勢を張っていた。

 土台となるものもなく、自身をしっかり支えることも出来ない浅薄な存在。


 欲しいものを掴みたいと言う過度な欲望が、指を肥大化させ、相手の気持ちや都合を一顧だにせず「物品」扱いする歪んだ心が、それを綱のように捻じれさせていた。綱のように強固な欲望とも取れる。


 ある程度、人の形を保ったまま、生きながらにして魔物と化した。

 男も成人の儀へ行ったなら、一度は主峰の騎士ヒルトゥラの手で、心の穢れが祓われた筈だ。それでも、瘴気(しょうき)に取り込まれ、人間であることを止めてしまった。


 心が根元から腐ってしまえば、もう救う手立てはないのか。


 〈あの男は、おかみさんの話が全部本当なら、姉妹から、親戚から、近所の人たちから、何度も何度も……三十年以上ずっと手を差しのべられていたのよ。それをバカにして貶して、振り払い続けたのは本人。あなたが気に病むことじゃないのよ〉


 ……それは、わかっています。


 幼い頃、王都で遭遇した三界の魔物。

 夢の中では、今回出遭ったモノの形をしていたが、実際は全く異なる姿だった。


 ナイヴィス……幼いサフィール・ジュバルは、それ以降の数年間、家の外へ出られなくなった。

 家族も幼い彼を案じて、無理に外出させることはなかった。

 親がナイヴィスの友達を家に呼び、部屋の中で遊ばせた。中庭で遊べるようになるまで、三年余りの歳月を要した。


 ワレンティナが産まれる頃、やっと、家族と一緒なら外出できるようになった。

 それでも、知らない成人男性……三界の魔物と化した男と同年代の男性は、恐怖の対象だった。


 ナイヴィスは虫を殺すどころか、触ることすらできなくなっていた。

 魔剣ポリリーザ・リンデニーに、夢で記憶を再現されるまで、その理由を自分でも知らなかった。


 三界の魔物と遭遇したことすら、忘れていた。


 無意識に魔剣の柄に手を触れた。

 そっと握り返す感触に、ざわついた心が鎮まってゆく。


 雲は遠く、夏の日差しが強く大地を照らしている。

 足下の影は濃いが、雑妖は居なかった。

 鎧のお陰で、暑さは感じない。日の光に守られる安心感だけがあった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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