62.記録に残す
〈さぁねぇ? 私たちの仕事は、三界の魔物を倒すことよ。ならないようにするのは、本人の心掛け次第。村の人たちは、充分頑張ってたじゃないの〉
……家族は野放しにしてましたよね? 窘めていた姉妹は多分、村の人と同じように酷いことを言われて、心が折れて、家族を捨てたんじゃないかと思いますけど。
〈そうね。理由はわからないけど、常命人種の女性を随分、見下してたみたいだから、常命人種の姉妹が何を言っても、耳を貸さなかったんでしょうね〉
……本人も家族も常命人種なのに、どうしてそんな風に思ったんでしょう? 村の人のことも、常命人種だからって、罵っていたそうですけど。
長命人種だった女騎士は、心底、理解し難い、と言う思考を返して来た。
ポリリーザ・リンデニーは生前も、人間を辞め魔剣となった現在も、年毎に老いる常命人種を見下してなどいない。
〈さぁ? 何なのかしらねぇ? 私はそんな穢らわしい考え、知りたくもないけど、あなたはそんなことを知って、どうしたいの?〉
……予防の役に立てられるかもしれないと思ったんですけど、ダメでしょうか?
〈予防、ねぇ……? 誰が、どの段階で、何をすればいいのかしらねぇ?〉
三界の魔物を斬る為の魔剣に問われ、ナイヴィスは考え込んだ。
……うーん……まだ、何もわかりません。でも、今回のことなら、その人がバカげた主張をし始めた時に、親がきつく言って聞かせていれば、或いは……
〈そうかしらねぇ? その親も残念な感じの人だから、娘が二人とも逃げちゃったんじゃないの?〉
……あぁ……じゃあ、どうすれば……
〈そんなの、すぐに結論が出るワケないじゃない〉
女騎士ポリリーザ・リンデニーは殉職するまで、人間として四百年の時を過ごした長命人種だ。
退魔の魂の魔剣となった後も、誰かの手に握られ、誰かの目を通して世間を見ている。
生まれて三十年足らずのナイヴィスとは、比べ物にならないくらい人生経験豊富だ。
一緒に考えてくれることを期待していたが、あっさり切り捨てられ、ナイヴィスはがっくりと肩を落とした。
〈なるべくたくさん記録して、それを烈霜騎士団だけじゃなくて、裁判官とか他の人にも見られるようにして、なるべく多くの人が、対策を考えられるようにすればいいんじゃないの?〉
……もっと早く、解決策が見つかるかと思ってたんですけど……
〈あなた一人が焦って、何もかも抱え込んで、一気に解決しようなんて、身の程知らずなんじゃない?〉
……小物の分際で生意気言って、すみませんねぇ。
記録なら、ナイヴィスの得意とするところだ。
まずは自分に可能なことから、出来る限りのことをする。
隊長から、今日は休養に充てると言われたが、おかみさんの証言を忘れない内に書き残すことにした。
一人で部屋に戻り、報告書用の予備の白紙に記録する。




