61.滅亡の危機
この村は、広場を囲んで家が建てられている。
村長宅など、広場に面した数軒は二階建て、周辺の家は平屋建て。王都とは違い、家々には前庭がある。庭は果樹が植えられ、小さな畑になっていた。
低い土塀が、村の外周を囲んでいる。
この村でも土塀には棚を設け、【補強】【魔除け】【防火】などの術を掛けた石盤を組込んで、強化してあった。
魔力の供給は、石盤に【魔道士の涙】を嵌め込むことで賄っている。
村人は亡くなると火葬され、後に残った魔力の結晶で、死後も村を守るのだ。
この村の住人は、長命人種ではないので、残される【魔道士の涙】は小粒だ。魔力を放出し終えれば、【涙】は砕けてなくなる。
村人が減れば、将来的に土塀の防禦力が下がり、魔物に滅ぼされてしまうかも知れない。
たった一人の為に、村から若い娘が次々と去り、滅亡の危機に晒されていたのだ。
……三界の魔物になる前から、村のみんなに迷惑を掛けて、危うく村を滅ぼすところだったんですね。
〈そうねー。おかみさんの話じゃ、別に暴力を振るったとか、呪いを掛けたとか、ハッキリ犯罪と言えることをしてた訳じゃなさそうだし、余計にタチが悪いわ〉
相手の迷惑を顧みず、気の赴くままに暴言を吐き続け、周囲の者から再三に亘って窘められても、聞く耳を持たない。
呪いを掛けたならともかく、単に暴言を吐いただけでは、騎士団も動けない。
暴力で少女を思い通りにしようとしたのではなく、菓子と甘言で手懐けようとしたに過ぎない。
尽く失敗に終わったのは、幼い子供の目にもわかりやすく、下心が剥き出しだったからだ。
その先には明確な不幸が待っているとわかっていても、生きた人間が相手では、力ずくで排除することも出来ない。
そんな有様でも一応、「人間」の範囲内に収まっていれば、排除した「被害者」が加害者となり、「犯罪者」として処罰されてしまう。
ナイヴィスには、散々見下した存在を手に入れたがる気持ちも、貶して傷付けた相手を菓子と甘言で懐柔できると思う思考も、全く理解できなかった。
……共同体の破壊者なのに、どうすることもできないなんて。
ナイヴィスは歯痒く思った。
その男は、黒山羊の王子殿下の忠告にすら、従わなかった。
成るべくして、三界の魔物と化したのだ。
……もっと早くに、何とかできなかったんでしょうか?




