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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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60/91

60.警告を無視

 「何なのそいつッ! 許せないッ!」

 ワレンティナが怒りで肩を震わせた。


 「落ち着きなよ。君、あの三界の魔物を散々、斬ってたじゃないか」

 「ん? あ、そっか、その人、人間やめちゃってたんだ……」

 ムグラーに言われ、ワレンティナは小さく咳払いして、お茶を飲んだ。


 「うん、その時もね、王子様は『こういうの慣れてるから、今回はいいよ』って仰って、近衛騎士の方を止めて下さったんだよ」

 慈悲深いお方だよ、とおかみさんは深い感慨を籠めて言った。


 ……許したのかな? 何か、もう面倒臭くて相手したくない、みたいな気配が……

 〈そうでしょうねー。三界の眼で、何をご覧になってたのかしら?〉


 ……あッ!


 おかみさんは、溜め息交じりに説明を続けた。

 「あんなの、お許し下さらなくてよかったのに……」

 黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下は、わざわざそんな奴にまでお声を掛けて下さったんだよ。



 「あのね、君、そう言うことばっかりいってるんでしょ? (けが)れに埋もれて、僕には君の顔もわからないよ」


 そいつは、近衛騎士に取り押さえられたまま、王子殿下を睨むだけで、返事もしなかったけどね。

 そんな無礼な態度をとられても、殿下は怒ったりなさらなかったんだよ。

 それどころか、有難くも勿体(もったい)ないことに、どうすればいいかも、教えて下さったんだよ。


 「このままだと、四年後の二月十三日には、人としての寿命が終わっちゃうよ。今からもう一回、ヒルトゥラ山に登って、穢れを祓ってもらって、心を入れ替えた方がいいよ」



 おかみさんの言葉に、トルストローグが愕然(がくぜん)として呟く。

 「それは、まさか、死の宣告……?」

 三界の眼には、人の魂が三界のどの層に近付いているかを視ることで、残りの寿命を計ることができる。


 おかみさんは、お茶を一口飲んで遠くを見つめると、話を続けた。

 「今にして思えば、そうだったんだろうねぇ」



 あいつは、その場では強がって謝りもしなくてさ。村長さんや親戚が平謝りだったよ。


 ご一行がお城へ帰られた後も、村長さんや親戚が、入れ替わり立ち代わりあいつの家へ行って、黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下の(おっしゃ)る通りにしろって、何回も何回も言いに行ってたよ。


 でもね、みんなであんなに言って聞かせても、折角、殿下から頂戴した有難いお言葉に従わなかったんだよ。


 「なんで犯罪者ってワケでもないのに、大人の俺がそんな面倒臭いことしなきゃなんねーんだ。オンナ共にはホントのこと言っただけだし、子供はフツーにかわいがってるだけだろ。俺は畑仕事とお袋の世話で、忙しいんだよ」

 なんて言ってね。


 そして、とうとう去年、行方不明になったんだよ。

 殿下がはっきり宣言なさった四年目だったからね。

 村の誰もが、あいつを死んだものと見做(みな)して、ホッとしてたんだたよ。


 でも、あいつの母親だけは、認めなくってね。

 どの口が、探してくれなんて言うんだか。みんなに迷惑掛けまくって、他所様(よそさま)の家の若いコには、村から追い出すようなことばっかりしてたクセに、厚かましいったら。



 トルストローグは、納得して何度も頷いた。

 「林の周辺が休耕期で、誰も行かなかったから、今まで気付かなかったのか……」

 「えぇ。あいつが居なくなったから、また村で婚礼をするようになって、わざわざ林まで行かなくなりましたし……」


 「婚礼の場所で待ち伏せしてたなんて、気持ち悪ーいッ!」

 ワレンティナが鳥肌を立て、自分の両肩をさすった。

 ナイヴィスも、三界の魔物の醜悪な姿を思い出し、スープを飲む手が止まった。


 「ま、まぁ、とにかく、三界の魔物は倒せた。この村の娘はもう安全だ」

 「ありがとうございます。これでもっと娘や孫に会えます」

 隊長の宣言に、おかみさんは深々と頭を下げた。

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用語は、大体ここで説明しています。

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