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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第一章 最初の任務
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06.武器庫点検

 深夜を過ぎたが、ナイヴィスは寝付けずにいた。

 隣で眠るワレンティナの寝相の悪さも、枕が変わったことも、他のことに比べれば、ほんの些細なことに過ぎない。

 魔法の鎧を身に着けたままであること。夜襲などへの備えとして、騎士は寝巻に着替えないと知ったのは、つい最近のことだ。


 そして、最も心に重くのしかかっているのは、明日のこと。


 ナイヴィスに向けられた村娘たちの眼は、期待に満ちていた。

 それだけ、不安が大きいのだろう。


 「明日はきっとやっつけて下さいね」と言われ、善処(ぜんしょ)すると答えたものの、ナイヴィスには、何をどうすればいいのかさえ、わからない。

 何しろ、今回が騎士として初めての任務なのだ。


 ナイヴィスは三カ月前まで、文官として、ムルティフローラの王城で働いていた。

 二十歳の時に官吏登用試験に合格し、この七年間、役人として誠実に勤めてきた。


 元居た部署は、空調管理室。

 術による室温管理や、局地的な天候の変更、天気予報が主な業務だ。


 他から見れば、地味で単調でつまらない仕事だが、物事にコツコツ取り組むのが好きなナイヴィスの性分には、合っていた。天職とも言える。


 それが一変したのは、春の武器庫点検だ。


 ムルティフローラの城内には、複数の武器庫がある。

 そのひとつ、退魔(たいま)(くら)は「退魔の魂」と呼ばれる武器たちが収められていた。


 騎士団の備品管理は本来、装備局の担当だ。

 何故か、春の一斉点検だけは毎年、他部署に応援を要請している。


 ナイヴィスたちは退魔の庫に入る前、上司に注意を与えられた。

 「点検は目視で行う。決して本体に手を触れぬよう、気を付けるように」


 点検の項目は、武器が然るべき場所に納まっているか、【魔道士の涙】の輝きが失われていないか……の二点のみ。


 簡単な作業だ。すぐに終わる。


 「闇照らす、夜の(あるじ)の眼差しの淡き輝き、今、(とも)す」

 空調管理室長が、術で【(あかり)】を(とも)し、庫内の様子が鮮明になる。

 月光のようなやさしい光に照らされたのは、塵ひとつない清潔な空間だった。


 十人は、広大な庫内に分散し、手分けして点検作業を始める。

 ナイヴィスは、東から二列目の棚を担当した。


 あの春の絶望を思い返す内に、身体の疲れに引きずり込まれ、いつの間にか眠っていた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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