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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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59.前回の保守

 「うむ。村の衆のご心労、察するに余りある」

 「よく、(こら)えて下さいましたね」

 ソール隊長とムグラーが、烈霜(れっそう)騎士団として(ねぎら)いを口にした。


 おかみさんは礼を述べ、話を続けた。

 「五年程前、前回の結界の保守には、黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下がいらっしゃったんですよ」


 「三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)殿下の、曾孫(ひまご)に当たるお方だな。生まれつきお身体は弱いが、魔力は三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)殿下より強いと聞いたことがある」

 「あら、そうなんですか」



 黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下は発育不全で、お血筋を残すことはご無理だろう……と、村の誰もがお察ししましたね。 

 身長は大人の男として充分だったけど、長衣の袖からちらっと見えた腕は、枯木みたいに細かったんですよ。

 何より、声変わりしていない小さな女の子みたいな声で、確信しました。


 見た目通り、人並の体力もお持ちでなかったもんだから、階段もご自身のおみ足では上れなくて、お付きの人に抱えられてましたね。


 王子様ご一行が、結界の出発点にお戻りになって、【道守り】の術が完成した瞬間、みんな感動して自然と、わーって声が出ましたね。


 王子様は近衛騎士の方に支えられて、すっかり疲れてらしたのに、私らの声に応えて下さったんですよ。

 そんなお身体を押して……そりゃ、日にちは余分に掛かりましたけどね、でも、ちゃんと【道守り】を完成させて、私らをお守り下さったんですよ。



 おかみさんは、当時を思い出したのか、涙ぐみながら語った。

 「黒のお(しるし)は三界の眼の(あかし)。何も結界の保守にお出ましにならずとも、城で()したまま騎士に【刮目】を掛けて下さるだけでも十分な筈……」

 「王子殿下のお人柄なんでしょうか? ご自身の手で、直接、民を守りたい……と?」

 ソール隊長が驚いて言い、ムグラーがそれを受け、呟いた。


 「立派なお方だなぁ」

 トルストローグが感嘆し、ワレンティナがおかみさんを羨ましがった。

 「いいなぁー。おばさん、王子様に直接、お目にかかれたんでしょ?」


 「えぇ、勿論(もちろん)、遠くからで、お話はしなかったけどね。男前だったよ。……騎士様たちは、お城で毎日でもお会いできるんじゃないのかい?」

 意外そうに聞く。


 隊長が苦笑した。

 「我々は近衛騎士ではなく、烈霜(れっそう)騎士団で、詰所が王都の街中(まちなか)にあるんですよ」

 「あぁ、それで……」


 「お兄ちゃん、役人の時、どうだった? 毎日、お城で働いてたんでしょ?」

 話を振られ、ナイヴィスは困惑した。

 「えっ? 私はお城の中でも役所の区画担当だったから、そんな、王族の方々なんて雲の上で……」


 〈そうよねー。木端役人(こっぱやくにん)だったもんねー〉

 ……余計なお世話です。

 〈あら、言うようになったじゃない? 生意気ー〉

 ……ぐぬぬ……


 「ねっ? 騎士様方も黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下は、ご立派で有難いお方だと思うでしょう? でもねぇ、あいつだけは、殿下を(けな)しまくったんですよ」

 「えぇッ?」

 騎士の驚愕がひとつになった。


 「ノロマだの、骨と皮で気持ち悪いだの、言いたい放題。挙句の果てには、もう、私の口からはとても言えないような下品な罵詈雑言(ばりぞうごん)……」

 一同、王子が何を罵られたのか察しがつき、言い知れぬ怒りが込み上げた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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