05.霊性の翼団
今を遡ること二千四百年程前……
印歴紀元前二百年頃、【霊性の翼団】が発足した。
国の枠に囚われず、魔術の記録、研究、開発、魔道士の育成を担う魔道士の国際互助組織だ。
魔術の継承はそれまで、職能組合による徒弟制や家伝だった。
魔術の系統を「学派」に分けたことで、より深く専門的な研究を可能にした。
門戸は広く開かれ、他学派の術も、禁呪以外は誰でも学ぶことができる。
ナイヴィスが学んだ【飛翔する燕】は、天候予測と天候制御の魔法を研究する気象学者の学派。雨の日に生まれた者にしか扱えない術が多い。
この魔剣、ポリリーザ・リンデニーが修得した【舞い降りる白鳥】学派は、術の解析や呪い解除の専門家。
どちらも、魔物と戦うには不向きだ。
ナイヴィスは、剣になる前のポリリーザ・リンデニーを「偉大な女傑だった」と聞いている。
長命人種で、ムルティフローラ王国軍の正騎士を四百年余り勤め、殉職した。
一体、どうやって、仕事をしていたのか。
明快な答えが、ナイヴィスの頭に響いた。
〈私が強いんだから、いいじゃない〉
「……でも、リーザ様を振るうのは、私の手ですよね?」
ナイヴィスは柄に手をやり、声に出して呟いた。
ベッドで転がっていたワレンティナが、動きを止めて身を起こす。
「お兄ちゃん、リーザ様、何て?」
「リーザ様が強いから、明日のことは心配せずに、リーザ様と隊長の指示に従ってればいいって……」
「それでいいんじゃない?」
何か問題でもあるの? と声には出さず、小さく首を傾げる。乱れた金髪が、はらりと頬にかかった。
「リーザ様を持つ手は、私の手なんだよ?」
「落とさなきゃ大丈夫よ」
ワレンティナは、ナイヴィスの隣に座り直した。
「今日のあれを見て、どうして大丈夫だって……」
ナイヴィスは頭を抱えた。
「リーザ様は魔剣……それも、退魔の魂なんでしょ? イザとなったら、お兄ちゃんが身体預けちゃえばいいんじゃない?」
「他人事だと思って軽々しく……」
〈まぁ、それは最後の手段にとっときましょ〉
ナイヴィスの裡に響く声は、笑いを含んでいた。
【舞い降りる白鳥】学派と【飛翔する燕】学派の徽章。
詳細は、「野茨の環シリーズ 設定資料」の用語解説07.学派でご確認ください。