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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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49.仮初めの壁

 「交代します! 印を付けて跳んで、近衛騎士を呼んで下さい!」

 林の外へ足を向ける。鉛の靴でも履かされたかのように重い。震える足で、沼地を歩くように進む。

 心臓が不吉なまでに激しく、鼓動を刻んだ。勇気を振り絞り、戦地へ赴く。


 「トルストローグ、行けッ!」

 隊長の命令で、トルストローグが肉片を飛び越え、林へ駆け込む。懐から羊皮紙と筆記具を出しながら走る。

 すれ違い様、ナイヴィスの肩を叩く。

 「無理すんなよッ!」

 「はっ、はい!」

 ナイヴィスはその声で呪縛を解かれたように、林の外へ走り出た。


 〈日が当たってるから、林の中より弱ってるわ。先にかけらを消して〉


 女騎士の助言に従い、ナイヴィスは斬り落とされたばかりの指先に狙いを定めた。

 ワレンティナに跳びつこうと、尺取虫(シャクトリムシ)のように身を縮めている。跳躍の瞬間と、剣を突き落とす動きが重なった。

 魔剣の刃に触れた指が、その一撃で霧消する。


 〈さぁ、次ッ!〉

 「はいッ!」

 退魔の魂の魔剣となった女騎士が、所有者の脳裡(のうり)に剣技の型を展開する。


 ナイヴィスは示されるまま、剣を右手に持ち直した。

 姿勢を低くし、地を這う膜の破片を斬り裂き、振り切った勢いで、別の肉片も切り捨てる。


 後ろから何かがぶつかり、右腿に鋭い痛みが走った。それに構わず、足下に落ちた指先を薙ぎ払う。


 魔物は膜状の足で立ち上がった。

 ぐにゃぐにゃと波打つ肉色の膜から、無数の突起が現れる。突起はくねりながら、紐状に伸びた。


 「げっ……あれ、ひょっとして、スネ毛?」

 ワレンティナが、この状況でも冷静に、観察結果を述べた。


 ナイヴィスは本体に構う余裕はなく、ひたすら、女騎士の指示に従い、肉片を斬る。

 伸びたスネ毛が捻じれながら束になり、ナイヴィスに迫る。


 隊長の剣が、スネ毛の綱を断ち切った。

 切れたスネ毛が(ほど)け、風に舞う。その一本ずつが意志を持って四人を襲った。


 「ワレンティナ! 【白銀の網】だ!」

 「たっ、隊長ッ! 私、無理ですっ! お兄ちゃん……」

 「ナイヴィスしかトドメを刺せん。ムグラーと組め!」

 「やるんだ!」

 ムグラーがワレンティナに駆け寄る。ワレンティナは半ベソで剣を収め、ムグラーと掌を合わせた。


 隊長が【盾】を展開し、ナイヴィスの背後を守った。

 ナイヴィスは闇雲に剣を振るい、無数のスネ毛と戦う。


 「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」


 【白銀の網】を開く二人を容赦なく、スネ毛と肉片が襲う。

 スネ毛が腕に刺さり、ワレンティナが悲鳴を上げた。幾許(いくばく)かのスネ毛を絡め取った【網】が乱れる。


 「ティナ!」

 ナイヴィスは剣を振り回しながら走った。

 無防備な二人に群がるスネ毛と肉片を魔剣で蹴散らす。

 ワレンティナに刺さったスネ毛を、剣で剃るように削ぎ落す。魔物の破片から解放され、傷口から血が滲み出た。


 「お兄ちゃん、後ろ!」

 集中が切れ、【白銀の網】が消滅する。


 「クソッ!」

 ムグラーが、魔物と二人の間に立ち(ふさ)がった。両手を広げ、魔力の【壁】を打ち建てる。


 「天地(あめつち)(あわい)隔てる風含む 仮初(かりそ)めの不可視(みえず)の壁よ、触れるまで (たぎ)真水(さみず)に姿似て ここに建つ壁」


 新たなスネ毛の束が、不可視の【真水(さみず)の壁】に阻まれ、べったり張りついて広がる。

 三界の魔物が触れた瞬間、壁が薄青く染まった。小汚いスネ毛は、半透明の壁にへばりつき、蛆虫の群のように蠢く。


 ナイヴィスは、ムグラーに刺さったスネ毛も斬り祓った。

 三界の魔物は、指を全て失った手を前へ突き出している。

 滴る血が大地に染み込み、土を取り込んで新たな魔物を生じた。


 隊長が【盾】を構え、じりじりと後退する。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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