表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/91

48.お嬢ちゃん

 「あッ、ちょっと、待って下さいッ!」

 次に口を開くと、ナイヴィスの情けない声が飛び出した。

 身体の主導権は戻ったが、膝が笑って力が入らない。


 水が林の外で力を失い、唐突に落ちた。魔物の胴と足が、だらしなく地面の上に広がる。

 上半身を逸らせ、魔物が頭を巡らせた。緑の手袋小隊を順に見る。その顔は、ただの中年男性だ。


 「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」


 普通に話しかけられ、ワレンティナがたじろぐ。その隙を突き、巨大な指が捻じれながら伸びる。トルストローグの剣が一閃し、それを斬り飛ばした。


 隊長とムグラーの【光の槍】が、魔物の頭と上半身を貫く。穴を穿(うが)たれた頭が、ワレンティナに向けられた。穴から流れる血は妙に粘つき、糸を引きながら垂れている。


 「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」

 魔物の口が動き、何事もなかったかのように呟く。切られた指が跳ね、ワレンティナに近付く。


 〈何、呆けてんのッ! あれは三界の魔物、普通の剣と魔法じゃ無理なのッ!〉


 「えっ、あ、あのっ、そんな……そんなこと、急に言われても……」

 ナイヴィスは、泣きたいのを(こら)えるだけで精一杯。林の中央でへたり込み、動けない。


 退魔の魂の魔剣が叱咤する。

 〈あれは、私とあなたでないと倒せないの!〉


 林の外では、緑の手袋小隊が戦っている。

 剣で斬られても、術で撃たれても、三界の魔物は痛痒を感じないのか、平然と同じ言葉を繰り返す。


 「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」


 その口元は笑みの形に歪んでいた。

 斬り離された肉片は、個別の意思があるかのように動いた。(よだれ)並に粘つく血飛沫(ちしぶき)をまき散らし、四人を襲う。


 明らかに、主な獲物はワレンティナだ。

 それを(はば)む隊長とムグラー、トルストローグを排除しようとしている。汚い爪が鎧の防護を上回り、騎士の身体を傷付けた。


 〈まぁ……いきなり本体は無理でしょうから、細切れになったのを討ちなさい。あれも放っておくと独立して、育つから〉


 へたり込むナイヴィスの前で、赤黒い土が盛り上がる。粘つく血が染み込んだ土塊が、意志を持って起き上る。

 〈これもそうよ。ほら、早く〉


 震える足は、根が張ったように動かない。

 ナイヴィスは柄を両手で包み、魔剣を逆手(さかて)に構えた。先日の雑妖退治を思い出す。


 「垂直に、(つか)をしっかり持って、落とすように突け」

 隊長の言葉が脳裡(のうり)に蘇る。


 実体化した刃を、蠢く地面に突き立てる。それを支えに、体重を掛けて立ちあがった。

 土だった場所が、生命なき砂となり、さらさらと崩れる。


 ナイヴィスはそれを見届けると、林の外へ向かって叫んだ。

 「トルストローグ! 来て下さいッ!」


 「今、取り込み中だッ!」

 跳び付く肉片を斬り伏せ、トルストローグが怒鳴り返す。


 ナイヴィスは再び叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
【関連が強い話】
野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ