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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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47.真名の強制

 〈サフィール・ジュバル・カランテ・ディスコロール! 身体を貸しなさい!〉

 有無を言わさず強制され、ナイヴィスの身体が林へ走る。


 「お兄ちゃんッ!」

 「ナイヴィス! 止まれッ!」

 従妹と隊長の声に、女騎士の声が応じる。

 「私が本体を引きずり降ろす。援護なさい」


 樹冠(じゅかん)から残りの指が襲いかかる。軽やかな身のこなしで、巨大な指を避けた。進路を(さまた)げる指を無造作に斬り捨てる。

 普段のナイヴィスからは想像もつかない動きだ。


 「優しき水よ、我が声に我が意に依り、起ち上がれ。漂う力、流す者……」


 ナイヴィスの口から、凛とした女性の声が発せられ、力ある言葉を紡ぎ出す。

 断面から滴る血が泉を穢す。切断された指先は音もなく塵となり、消滅した。


 ナイヴィスの身体を乗っ取った女騎士は、次々に繰り出される指の攻撃を(かわ)しながら、早口に呪文を唱えた。


 「……分かつ者、清めの力、炎の敵よ。起ち上がり、我が意に依りて、押し流せ」


 泉の水が、女騎士の力ある言葉に応え、起ち上がる。

 激しく渦巻き、小石や折れた枝を巻き込み、竜巻のように樹冠に刺さった。

 女騎士がナイヴィスの目で、林の中央の梢を見上げる。


 頭上に広がる枝に、肉色の膜が張っていた。

 人間の足と胴が膜状に伸び、根のようなもので枝や幹にしがみついている。


 胸から上だけが、いかにも人の良さそうな、小太りの中年男性だ。

 手指が肥大化し、別の生物のように捻じれながら、林間を自在に動き回り、魔剣使いを追う。


 ナイヴィスを使う女騎士は、それを巧みに(かわ)す。


 水の柱が魔物の上半身を捉えた。【霊性の鳩】学派の【操水】だ。普通の生物が相手なら、肺に流し込めば溺水させられるが、三界の魔物はそんなことでは殺傷できない。


 三界の魔物は、人間だった頃の名残(なごり)なのか、溺水を免れようと、首を()()らせた。

 細く伸びた水流が、幹にへばりつく膜を樹皮ごと引き剥がす。一部が剥がれると、連鎖して水に巻かれて流れた。


 ナイヴィスの身体が、魔剣で林の外を示す。

 三界の魔物を呑んだ水が、水平に流れた。


 「さぁ、トドメはあなたが刺しなさい!」


 ナイヴィスの口が女騎士の声で告げ、一文字に引き結ばれる。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
【関連が強い話】
野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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