表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/91

44.小屋の中身

 「うわっ」

 ムグラーが声を上げた。

 ワレンティナが、力ある言葉で石に命じる。

 「力得よ、石よ意志持ち、飛び立て敵へ、飛礫(つぶて)となりて……」


 「逃がすなッ」

 「(もろもろ)の力を(つか)ね 光矧(ひかりは)ぎ 弓弦(ゆづる)を鳴らし……」

 隊長の命令でムグラーも、何も持たない手で矢を(つが)える動作をしながら、呪文を唱える。


 トルストローグがナイヴィスの手を引き、小屋から離す。

 「魔獣が入ってた」

 「えッ?」

 慌てて振り向く。何も居ない。三人は上空を注視している。


 「飛んでるから、俺たちじゃ届かないよ」

 トルストローグに言われ、ナイヴィスも三人の視線を辿(たど)った。


 五匹。

 蛇に似た魔獣だ。朝の空を、蝙蝠の羽でひらひら舞う。鱗も羽も目も覚めるような鮮烈な赤。長さは鞘と同じくらい。


 「よく考えたら、今は夏野菜の収穫期だから、(すき)とか使わねぇな」

 「あ、あぁ……えーっと、長い間、開けてなかったんですね?」

 「ま、どの(みち)、俺たちじゃ攻撃が届かねぇから、見てよう」

 がっくりと肩を落とすナイヴィスに、トルストローグはニヤリとして言った。


 隊長もムグラーと同じ呪文を唱える。

 〈あれにも毒があるから、気を付けて、念の為に私を構えてなさい〉

 言われるまま、鞘を外す。魔力が収斂(しゅうれん)し、光が刃になる。


 「……降り注げ」

 「……魔を祓え」

 二人は同時に結びの言葉を唱えた。


 ワレンティナの足下から石ころが浮き上がり、飛礫(つぶて)となって魔獣を襲う。【礫弾】の小石が直撃し、蝙蝠の被膜が破れる。破れた羽で足掻くが、赤い蛇はあえなく落下した。


 ムグラーが見えない弓を引き、魔力の矢を放つ。【光の矢】が三匹の胴を串刺しにして消えた。魔獣は胴が千切れ、地に落ちて尚、(うごめ)いている。


 隊長が放った【光の矢】も狙い(あやま)たず、最後の一匹を射落とした。


 「お兄ちゃん、ごめーん。そっち行ったー!」

 ワレンティナが落とした蛇は、羽以外は無傷だった。傷付いた羽を引きずり、ナイヴィスたち目がけて這い寄って来る。


 「えッ? うわッ! 何でこっちに……ッ!」

 〈いいから、さっさとトドメを刺しなさい〉


 蛇は草地を滑るように移動する。予想外に動きが速い。トルストローグも剣を抜いた。蛇が身を縮める。


 「ナイヴィス、【盾】だ!」

 〈開くのよッ!〉

 トルストローグと魔剣の声が鋭く告げる。


 ナイヴィスは頭が真っ白になった。


 〈サフィール・ジュバル・カランテ・ディスコロール! 右手を前に出しなさいッ!〉


 半端な位置にあった剣が、勢いよく振られた。跳躍した赤い蛇が、何の抵抗もなく両断される。左右に分かれた身が、ナイヴィスの後ろに落ちて消えた。


 何が起きたのかわからない。


 ナイヴィスは、剣を振り抜いた姿勢から、動けなかった。

 撃ち落とした魔獣にトドメを刺し、三人が駆け寄る。


 「安心しろ。魔獣は殲滅(せんめつ)した」

 隊長がナイヴィスの右手を取り、そっと降ろす。


 身体の震えが止まらない。膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

 「あ、お、お兄ちゃんッ」

 「お、おいッ、しっかりしろッ」


 〈後ろ、見てご覧なさい。もう居ないから〉


 震えて(きし)む首をなんとか動かし、肩越しに背後を見る。

 魔獣が落ちた辺りの草が倒れ、跡が残るだけで、何もなかった。


 「まぁ、無事でよかった。何が飛び出すかわからんからな。気を抜くんじゃないぞ」

 隊長が、ナイヴィスの頭をくしゃりと撫で、立ち上がらせた。


 ナイヴィスは大きな吐息と共に、項垂(うなだ)れるように(うなず)いた。

 「この鎧は、ある程度の攻撃は防げるが、魔獣の牙は防ぎきれぬこともある。帰ったら、しばらくは【盾】の訓練だな」


 〈攻撃は最大の防禦……なんて言う人も居るけど、やっぱりちゃんと守れるようになった方がいいのよ〉

 ……そうですね。


 〈誰かを傷付ける行動じゃないんだから、私を振るうよりもよっぽど、やり易い筈よ。違う?〉

 ……そう……ですね。


 〈必要以上に恐れないで。ちゃんと対象を見極めて、防ぐのよ〉

 そんなことを言われても、怖いものは怖い。


 文官に戻ることは諦めがついたが、だからと言って、急に武官としての精神が身に付く訳ではない。

 武官としての仕事に慣れる日が来るのか。もしかすると、慣れる前に人生が終わるかもしれない。


 魔剣となった女騎士は、所有者の不安を見なかったことにして、鞘に収まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
【関連が強い話】
野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ