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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

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43.仲間と共に

 初日は日没ギリギリまで、村周辺の雑妖を祓った。


 ナイヴィスは夕食後、割り当てられた部屋へ入るなり、ベッドに倒れ込んだ。

 心身ともに疲れ果て、何も考えられない。

 ワレンティナに何か言われた気がする。睡魔に(あらが)えない。聞き直すこともできず、眠りに落ちた。



 翌朝、夜明けと同時に起こされ、掃討に出た。


 今日も朝から蝉の声が賑やかだ。

 隊長はナイヴィスの顔を見て、目尻に(しわ)を寄せた。

 「よく眠れたようだな。今日も無理せず、安全第一でゆくぞ」


 四日続けて掃討し、五日目は休息。

 何事もなければ村でゆっくりする。十五日目は撤収日なので、作業はない。


 「あ、おはようございます。気をつけていってらっしゃい」

 村内を巡邏(じゅんら)していた赤い盾小隊副隊長が、にっこり笑って手を振った。


 トリアラームルスの無邪気な笑顔に、こちらもつられて笑みがこぼれる。

 返礼し、緑の手袋小隊は、南南西へ向かった。



 「近衛騎士って、もっと威張ってるかと思ってたけど、あぁ言う人も居るのねー」

 丘ひとつ越えてから、ワレンティナが言った。


 隊長とムグラーが、トリアラームルスの人となりを語る。

 「トリアラームルス副隊長は、子守り上手でな。黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)殿下の教育係も兼任されている」

 「新人の訓練もなさってて、面倒見がいいから、割と慕われてるんだ」


 「へぇー。見た目怖そうなのに、意外ですねー」

 ワレンティナが失礼なことを言う。


 ナイヴィスは、道中の村でトリアラームルス副隊長から受けた指導を思い出した。


 大きく力強い手はあたたかく、安心できた。

 やさしい眼差しに見守られているだけで、勇気が湧き、初めて魔剣を振るって雑妖を消すことができた。


 トリアラームルスに育てられた子は、幸せだ。

 ナイヴィスは、黒山羊の王子(チョールヌィ・カジョール)が羨ましくなった。

 三界の眼で、余人には視えぬ醜悪なモノを知覚しても、トリアラームルスが一緒なら、怖くはないだろう。


 〈あなたには、私が居るじゃない〉

 何言ってんの、と女騎士ポリリーザ・リンデニーが、ナイヴィスの頭の中で笑う。


 ナイヴィスはそっと(つか)に手を置いた。

 柄を握れば、女騎士と手を繋いでいるような、不思議な感覚を味わえる。


 跳び縞の時のように、女騎士が手を放してくれず、酷い目に遭わされたりもするが、今は、それが心強かった。


 魔物と戦う時、ナイヴィスは、一人ではない。


 前を歩くソール隊長とムグラー、隣のワレンティナ、後ろにはトルストローグ。緑の手袋小隊と魔剣ポリリーザ・リンデニーが居る。


 今更、それに気付いた。


 昨日一日、雑妖退治に畑や牧草地を回った時も、仲間たちが支えてくれていた。


 申し訳ない程に手厚く。


 ナイヴィスは朝の光を浴びながら、しっかりと前を向いた。



 「農具小屋がありますね」

 ムグラーが言って、畑の隅を指差した。


 「日の出前に、雑妖が逃げ込んでいることが多い」

 「戸を開けただけで消えちゃうし、お兄ちゃん、開けてみる?」

 「えっ?」

 言われて思わず足が止まった。


 トルストローグがポンと肩を叩く。

 「日に当たったら消えるんだ。【白銀の網】で引っ張るより楽だし、やってみろよ」

 「違うモノが入ってたら、助けるから」

 「えっ? 違うモノって、何ですか?」

 「魔獣とか」

 ナイヴィスは、肉屋へ向かう鶏の気持ちで、小屋へ向かった。


 農具小屋は、簡素な木造だ。大人が三人も入れば、満員になる大きさ。

 トルストローグが都会っ子のナイヴィスに説明する。

 「(すき)とか鎌とか何か、農具を入れてあるんだ」


 小屋は朝日を浴びて、静かに佇んでいる。

 ナイヴィスは唾を飲み込み、小屋の把手(とって)に手を掛けた。


 〈何をそんなに怖がってるの? 村の人は毎朝、開けてるのよ?〉

 そう言われて、少し気が楽になった。


 戸は、朝日が入りやすいように東を向いている。ナイヴィスは、自分の影が日を遮らないよう、戸の横に立ち、頭をからっぽにして開けた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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