43.仲間と共に
初日は日没ギリギリまで、村周辺の雑妖を祓った。
ナイヴィスは夕食後、割り当てられた部屋へ入るなり、ベッドに倒れ込んだ。
心身ともに疲れ果て、何も考えられない。
ワレンティナに何か言われた気がする。睡魔に抗えない。聞き直すこともできず、眠りに落ちた。
翌朝、夜明けと同時に起こされ、掃討に出た。
今日も朝から蝉の声が賑やかだ。
隊長はナイヴィスの顔を見て、目尻に皺を寄せた。
「よく眠れたようだな。今日も無理せず、安全第一でゆくぞ」
四日続けて掃討し、五日目は休息。
何事もなければ村でゆっくりする。十五日目は撤収日なので、作業はない。
「あ、おはようございます。気をつけていってらっしゃい」
村内を巡邏していた赤い盾小隊副隊長が、にっこり笑って手を振った。
トリアラームルスの無邪気な笑顔に、こちらもつられて笑みがこぼれる。
返礼し、緑の手袋小隊は、南南西へ向かった。
「近衛騎士って、もっと威張ってるかと思ってたけど、あぁ言う人も居るのねー」
丘ひとつ越えてから、ワレンティナが言った。
隊長とムグラーが、トリアラームルスの人となりを語る。
「トリアラームルス副隊長は、子守り上手でな。黒山羊の王子殿下の教育係も兼任されている」
「新人の訓練もなさってて、面倒見がいいから、割と慕われてるんだ」
「へぇー。見た目怖そうなのに、意外ですねー」
ワレンティナが失礼なことを言う。
ナイヴィスは、道中の村でトリアラームルス副隊長から受けた指導を思い出した。
大きく力強い手はあたたかく、安心できた。
やさしい眼差しに見守られているだけで、勇気が湧き、初めて魔剣を振るって雑妖を消すことができた。
トリアラームルスに育てられた子は、幸せだ。
ナイヴィスは、黒山羊の王子が羨ましくなった。
三界の眼で、余人には視えぬ醜悪なモノを知覚しても、トリアラームルスが一緒なら、怖くはないだろう。
〈あなたには、私が居るじゃない〉
何言ってんの、と女騎士ポリリーザ・リンデニーが、ナイヴィスの頭の中で笑う。
ナイヴィスはそっと柄に手を置いた。
柄を握れば、女騎士と手を繋いでいるような、不思議な感覚を味わえる。
跳び縞の時のように、女騎士が手を放してくれず、酷い目に遭わされたりもするが、今は、それが心強かった。
魔物と戦う時、ナイヴィスは、一人ではない。
前を歩くソール隊長とムグラー、隣のワレンティナ、後ろにはトルストローグ。緑の手袋小隊と魔剣ポリリーザ・リンデニーが居る。
今更、それに気付いた。
昨日一日、雑妖退治に畑や牧草地を回った時も、仲間たちが支えてくれていた。
申し訳ない程に手厚く。
ナイヴィスは朝の光を浴びながら、しっかりと前を向いた。
「農具小屋がありますね」
ムグラーが言って、畑の隅を指差した。
「日の出前に、雑妖が逃げ込んでいることが多い」
「戸を開けただけで消えちゃうし、お兄ちゃん、開けてみる?」
「えっ?」
言われて思わず足が止まった。
トルストローグがポンと肩を叩く。
「日に当たったら消えるんだ。【白銀の網】で引っ張るより楽だし、やってみろよ」
「違うモノが入ってたら、助けるから」
「えっ? 違うモノって、何ですか?」
「魔獣とか」
ナイヴィスは、肉屋へ向かう鶏の気持ちで、小屋へ向かった。
農具小屋は、簡素な木造だ。大人が三人も入れば、満員になる大きさ。
トルストローグが都会っ子のナイヴィスに説明する。
「鍬とか鎌とか何か、農具を入れてあるんだ」
小屋は朝日を浴びて、静かに佇んでいる。
ナイヴィスは唾を飲み込み、小屋の把手に手を掛けた。
〈何をそんなに怖がってるの? 村の人は毎朝、開けてるのよ?〉
そう言われて、少し気が楽になった。
戸は、朝日が入りやすいように東を向いている。ナイヴィスは、自分の影が日を遮らないよう、戸の横に立ち、頭をからっぽにして開けた。




