42.今後の予定
ナイヴィスは、茂みや岩陰で雑妖を祓うことには、幾分か慣れてきた。
牧草地脇の木陰で、携行食を摂りながら、隊長が今後の予定を説明する。
「今朝も言ったが、王女殿下は夕刻には結界を完成させ、村で休まれる。十五日間はここに滞在なさり、結界を補強される」
隊長はそこで言葉を切って隊員を見回した。
小枝で地面に近辺の簡略図を描き、続ける。
「我々も同じ期間、ここに留まり、結界内に元々居たモノを倒す。結界の補強が終われば、中の雑妖は一掃される。実際やってみてどうだ? 質問はないか?」
ナイヴィスは少し考え、小さく挙手した。
「お、ナイヴィスか。何だ? 言ってみろ」
「あの、たった十五日で、こんな広い範囲を全部、できるんでしょうか?」
「そんなもん、無理だ」
「えっ?」
あっさり断言され、隊員の声がひとつになった。
隊長は、若い騎士達に微笑んで言った。
「作業は四日続けて五日目は休む。最終日は撤収。実働は十二日間だ。そもそも、全て排除するのは不可能だ。こうしている間にも、新たな雑妖が発生している。だが、少しでも減らせば、それだけ村人は安全になる」
〈完璧にできないなら、何もしないんじゃなくて、少しでも、出来る限りのことをすれば、その分、確実に状態は良くなるのよ〉
ナイヴィスは、隊長と魔剣の説明に頷いた。
……ホントに、普通の掃除と同じなんだ。毎日、ゴミも埃も出るし、完璧にキレイになんて、できっこない。だからって、掃除しなかったら……
暗い想像に身震いした。
一番よくないのは、完璧を目指したが故に何もできなくなることだ。
穢れや問題を放置すれば、後々大きくなり、本当に手に負えなくなってしまう。
面倒でも、禍の芽が小さい内に摘み取る方が、結果的に少ない労力で済み、楽なのだ。
「できる者が、できる時に、できるだけのことをする。何でもそうだ」
「できる癖に他人に押し付けるような奴は、イザと言う時、真っ先に見捨てられるんだ」
隊長の言葉を受け、トルストローグが遠くを見て言った。
星座の雪羊を称する騎士の視線の先で、本物の羊が、のんびり草を食んでいる。
騎士になる前の仕事で何があったのか、詳しく聞きたいような、でも、聞いてはいけないような、怖い気がして、ナイヴィスは黙っていた。
魔剣ポリリーザ・リンデニーが、ナイヴィスの脳裡でわざとらしく溜息を吐いてみせた。
「じゃあ、早く次の場所へ行って、雑妖とか倒しましょうよ」
ワレンティナが勢いよく立ち上がる。隊長は苦笑し、手振りで座るように促して言った。
「急いては事を仕損じるとも言う。休むべき時には休み、動くときには動く。そういうことも大事だ」
最年少の新米騎士は、恥ずかしそうに笑って頭を掻いた。
ナイヴィス越しに見ていた魔剣が、つられて笑う。
〈あなたと従妹ちゃんを足して二で割れればいいんだけどねぇ〉
……無茶言わないで下さいよ。
ナイヴィスは眉間に皺を寄せ、地面を見詰めた。




