04.明日の不安
この村は王都の北東、馬で二日の位置に在る。
距離こそ近いが、陸路、水路の主要道から離れた田舎だ。
主街道は、王都ムルティフローラを中心に国土を十文字に走り、大河ベレーカは、国土の東部を南北に流れる。
村は、王都とベレーカの中間に位置していた。
畑の他は何もない小さな農村で、宿屋はない。
緑の手袋小隊は、村長の家へ案内された。
心尽くしの夕飯でもてなされ、一息ついたところで、隊長が村長に状況を説明する。
「接近して観察したところ、魔獣は『跳び縞』であることが、確認できた」
「おぉ……あの動きは、矢張り……ですが……」
「うむ。あれは森の奥で木の葉を食べる。大人しい魔獣だ。たまに畑へ出て、葉物野菜が食害に遭うやも知れぬが、あれの歯では、カボチャのような皮の固い果実は食えん」
村長が眉間の皺を深くする。
「食べられもせんのに、何故……」
「それを調べるのも、我々の役目だ」
広いとは言え、宿屋ではない為、部屋数には限りがある。
ソール隊長は一人部屋。ムグラーとトルストローグが二人部屋。ナイヴィスと従妹のワレンティナは、一人部屋に二人と言う部屋割になった。
ナイヴィスが恐る恐る、村長に申し出る。
「あのー……私は物置で……」
「いやいやいやいや、そんなッ! 騎士様、とんでもございません」
「お兄ちゃん、私なら気にしないよ」
「ティナ! 十四にもなって、乙女の恥じらいとか、そう言うものを……」
「命令だ」
隊長の非情な一声で黙らされ、ナイヴィスはがっくりと項垂れた。
「野営の時はみんなで雑魚寝してるのに、今更なに意識してんの?」
その顔をワレンティナが下から覗きこむ。青い瞳は無邪気に澄んでいた。
ナイヴィスは諦めて、与えられた部屋へ向かった。
「キャーッ! 広ぉーい」
ベッドは広かった。ワレンティナが身を投げ出し、ころころ転がる。
大人でも余裕で三人は寝られるだろう。
掛け布団は小ぶりの物が二枚。これなら、寝相の悪い従妹が多少動いても、夜中に剥ぎ取られる心配はない。
ナイヴィスはベッドの端に腰を降ろした。
〈よかったじゃない〉
魔剣使いの安堵を読み取り、女性の声が頭に響く。
ナイヴィスは心の中で応じた。
……えぇ、まぁ、これなら、蹴り出されることはないでしょう。それより明日、どうしましょう?
〈どうって? 私と隊長の指示にちゃんと従えばいいのよ〉
……えーっと、そうではなくて、ですね。私の術は【飛翔する燕】、リーザ様は【舞い降りる白鳥】。そんなので、どうやって魔獣と戦うんですか?
ムルティフローラの地図。「野茨の血族」と共通です。