38.小さい魔獣
緑の手袋小隊は、畑の隅に生い茂る薮の前で止まった。
「白銀の蜘蛛の糸編み網と成し 妖かしを絡める綾に現世の物は掛からじ 魔を捕る網よ」
トルストローグとムグラーが、向い合せに立って互いの掌を合わせる。
呪文の詠唱を終えると同時に、一歩退がった。離れた掌の間に、輝く網が現れる。
二人は歩調を合わせ、ゆっくり距離を開けた。魔力で編み出された網が広がる。
〈ずっと陰になる所に、網を掛けて引っ張るの。そこに潜んでる魔物や、小さい魔獣だけが捕れるってワケ〉
……へぇー。
〈感心してる場合じゃないでしょ。雑妖は日に当たるだけで消えるけど、魔獣はあなたたちがトドメを刺すのよ〉
……えっ。
〈ほら、来るわ。抜いて〉
ナイヴィスは慌てて鞘を外し、身構えた。
二人が薮を半周し、同時に引く。網に絡め取られたモノたちが、引きずり出される。
夏の日射しに晒され、雑妖は声もなく消滅した。
後に残ったのは、トカゲに似た魔獣二匹だ。
身体の大きさはイタチくらいだが、指が肥大化し、頭部と同じ大きさの鉤爪が生えている。
「毒があるから、なるべく咬まれんようにな」
ソール隊長の声に隊員の表情が引き締まる。
黄色地に紫の斑が入り、いかにも毒がありそうな「毒々しい」体色だ。
「ナイヴィス、やってみろ」
「えっ? 私が、ですか?」
「実体のある奴を倒すのは、初めてだな。まぁ、二人が捕えている間にやれば大丈夫だ」
〈術が切れたら逃げちゃうでしょ、さっさとなさい〉
二匹は、輝く網の中でもがいている。
逃れようと、絡まったまま別方向へ走るせいで、網が別の生き物のように蠢く。知能は高くないらしい。
〈その大きさなら、一撃で消せるから〉
ナイヴィスは強張る足をなんとか前へ出し、魔剣を構えた。
魔獣がジタバタするだけでなく、ナイヴィスの手も震え、全く狙いが定まらない。
「おい、もう術が持たんぞ」
トルストローグが鋭く言う。
ワレンティナが呪文の詠唱を始めた。
「力得よ 石よ意志持ち 飛び立て敵へ……」
少なくとも、一匹は任せられるが、ナイヴィスは動けなかった。
「外してもいいから、取敢えず振れ。剣をこう……持ってな。垂直に、柄をしっかり持って、落とすように突け」
隊長が横に立ち、自分の剣で見本を示す。
ナイヴィスは何とか頷き、隊長の動きを真似た。
目をつぶって闇雲に突いて当たる筈もなく、魔剣は地を穿った。同時に網が消える。
足下から、何かが飛び出す。目を開けたナイヴィスは、思わず身を竦ませた。
魔力を帯びた礫が飛ぶ。逃げる魔獣に降り注ぎ、容赦なく一匹の背骨を折り、もう一匹の頭を潰した。
「うーん、網じゃ中で動くからなぁ」
「次は【呪縄】で固定しましょうか」
トルストローグとムグラーが相談する。
石からはみ出した魔獣の尾が、痙攣している。
動かなくなった途端、消えた。乗っていた石が、音を立てて地に落ちる。
「さぁ、ぐずぐずしている暇はないぞ。次はあの茂みだ」
隊長が、牧草地の茂みを指差した。




