36.出会いの場
村長の話はまだ続いている。
ナイヴィスの位置から、王女の顔は見えない。
退屈でも無碍にする訳に行かず、三つ首山羊の飾りのついた杖を、何度も持ち替えていた。
〈どうして女の子が居ないのか、どこへ行ったのか、あなた、ちょっと聞いてみてよ〉
……えっ? 私が、ですか?
〈私の声は他の人に聞こえないんだから、あなたが聞くのよ。もしかしたら、その会話をきっかけに、ウチの娘を是非、騎士様の嫁に……なんて話になるかもね〉
……タチの悪い冗談はやめて下さい。
〈冗談なんかじゃないわ。騎士団じゃよくあることよ。女の子たちもそのつもりで、全力でおしゃれして歓迎してくれるのに〉
……何でそんな、ほぼ初対面で、任務の間しか居ない人と、交際しようと思うんですか。
〈だからよ。出会いのきっかけは何でもいいの。王都や地方の駐屯地に戻っても、手紙のやり取りはできるし、騎士が休みの日に【跳躍】で会いに行けるし……〉
……そんな短期間で仲良くなんて、ムリでしょう?
〈あなたって、ホントに奥手な朴念仁ねぇ。若いコが恋に落ちるのなんて、一瞬よ。一目惚れって聞いたことない?〉
……単語の意味は知ってますけど、そんな、はしたない。
〈堅物ねぇ。そんなだからモテないのよ。男のコも女のコも、フツーは年頃になったら、そんなコトばっかり考えてるものなのに〉
……あぁ、はい。普通じゃなくて申し訳ありません。
〈私に謝らなくていいのよ。女のコはね、強い男に惹かれやすいから、声掛けられてもあんまり邪険にしちゃダメよ〉
……そんなこと仰られましても、どう接していいかわかりませんし、大体、私は強くなんてありませんから。
〈強いわよ? 私がついてるんだし〉
……それは、リーザ様のお力であって、私の実力じゃありませんよね。
〈あなた、気は小さいけど、魔力だけは強いのよ? 自覚ないみたいだけど、この完全防護の正騎士の鎧、着てるだけでも、すごーく魔力を消耗するのよ〉
……うーん、そうなんですか?
そう言われても、ナイヴィスは釈然としなかった。
鎧を着るだけなら、誰でもできる。
幾つもの防禦魔法を効率よく同時に発動させるのは、鎧の性能であって、装備者の実力ではない気がする。
強いて言うなら、【飛翔する鷹】の術を使う、鎧職人の腕前の良し悪しだろう。
ナイヴィスは以前、ワレンティナから、魔力の循環と術の組み合わせや相性などを工夫すれば、少ない魔力で、より多くの術を発動させられると聞いたことがある。
尤も、どんなに工夫を凝らしたところで、鎧を纏う者の魔力が著しく不足すれば、鎧に組込まれた数々の術は、発動しなくなる。
多くの魔力を必要とする強い術から順に、効力を失ってしまうのだ。
装備者の元々の魔力が弱く、最初から「ただの服」同然の場合もあるが、多くの術を使い、疲労したせいで、それまで発動していた術が効力を失ってしまう場合もある。
三つ首山羊の王女は王族なので、当然、あの超重装備の鎧の効果を完全に常時発動させているだろう。
ナイヴィスには自分の鎧が、本来の性能を完全に発揮しているのか、魔力不足で不完全なのか、知る由もなかった。
〈わかってないのねぇ。いいわ。経験を積んで行く内に、わかるでしょ〉
「羊の方が多い、何もない村ではありますが、村人一同、精一杯のおもてなしを致します。まずはごゆるりと、旅の疲れを癒して戴きとう存じます」
ようやく村長の話が終わり、村人の表情が緩んだ。




