35.不自然な村
村長の背後に居並び、控える村人に目を向ける。
退屈した子供達が、親の手や服の裾を引いて、帰宅を促している。親は手真似で「しーッ」とやって、子供を窘めていた。
誰もがうんざりしているが、王女殿下を前にして、欠伸など無礼を働く訳にはゆかない。
乳幼児を除けば少年少女でさえ、神妙な面持ちで村長の話の終わりを待っている。
……あれっ?
〈あら、ホントねぇ〉
魔剣は、ナイヴィスが何に気付いて驚いたのか質問せず、思考を直接覗いた。
〈カボチャ盗られた村みたいに、女の子にキャーキャー言われなくて、よかったわねぇ〉
……ちょ、ちょっと、勝手に人の頭の中、覗かないで下さいよ。
〈何よ、今更。大体、そんなことでホッとしてどうすんの。あなたくらいの年の男は普通、女の子が少ないと、がっかりするものなのよ〉
二人の遣り取りは他人には聞こえない。
ナイヴィスは表面上、平静を装い、心の中で女騎士に反論した。
……男女問わず、初対面の人に取り囲まれて騒がれるなんて、怖いじゃありませんか。それに、この村……
〈そうね。確かに不自然ね。特定の性別の一定の年齢層だけ、すっぽり抜けてるなんて〉
女性の年齢構成が歪だ。
ざっと見渡したところ、幼い女の子、その母親、祖母。
十歳前後の少女から母親の間の層が、すっぽり抜けている。
男性は、各年齢層に大きな偏りはない。男女とも、年寄りは同じくらい少ない。
……何か用事があって、外してるんでしょうか?
〈女の子たちだけで、ごはん作ってるってこと? そう言うの、今までなかったけど?〉
魔剣となった女騎士が、四百年近い騎士経験の一部を開示する。
辺境の村へ魔物の討伐に赴いた際、騎士は村を挙げて歓待される。もてなしの食事を用意するのは、料理自慢の年配の女性や、腕に覚えのある男性たちだ。
若い娘は精一杯、着飾って到着直後の騎士隊を迎える。
花束などを持ち、文字通り、歓迎の挨拶に花を添える。
歓迎式で活躍する筈の十代後半から二十代前半の女性が、ほとんど姿を見せないと言うのは、確かに妙なハナシだ。
〈魔物が強くて、外壁を突破された後なら、女の子が一人も居ないこともあったけど、ここはまだ無事なのに、おかしいわ〉
……そう言うものなんですか?
〈子供や若い女性は、お肉が柔らかくて食べやすいから、狙われやすいのよ。だから、真っ先に食べられるか、家の奥で震えてるか、よ〉
ワレンティナが学んだ【飛翔する鷹】学派のような、魔物と戦える術を心得ている国民は、男女問わず少数派だ。
大抵の国民が、日常生活に必要な【霊性の鳩】や、農作業に使う【畑打つ雲雀】などの術は常識として習得しているが、【飛翔する燕】や【思考する梟】など、専門性の高い術は知らない。
剣技に長けたポリリーザ・リンデニーのような女性は、もっと稀な存在だ。
それとも、魔剣ポリリーザ・リンデニーが退魔の庫で退屈している間に、世の中が変わってしまったのか。
女騎士が、ナイヴィスの脳裡に首を傾げる映像を寄越す。
……昔のことは知りませんけど、今も、普通に考えれば、そうですよね。




