34.村長の長話
一行は、村人総出で迎えられた。
親に抱かれる赤子から、杖にすがる老人まで、総勢二百人程の小さな村だ。
「王女様、騎士様方。遠路遥々ご足労いただき、誠に恐れ入ります」
村長が進み出て、恭しく挨拶する。
「丁寧なお出迎え、ありがとう」
三つ首山羊の王女がにこやかに返礼すると、村長は深々と一礼し、挨拶を続けた。
「この五年、確かに守られて参りました。遠くからではありますが、黒山羊の王子殿下に厚く御礼申し上げますと共に、三つ首山羊の王女殿下におかれましては、必ずや【道守り】を全うされますこと、村民一同、露疑いなく、信じております」
「皆さまの期待に違わぬよう、間違いなく【道守り】を完遂して、この村を守ります。家を清め、心安らかにお待ち下さい」
王女が、良く通る張りのある声で応じる。
「勿体ないお言葉、かたじけのう存じます」
村人たちも村長に倣い、深々と頭を下げる。
村長は顔を上げると、王女の両隣の近衛騎士と、背後に控える緑の手袋小隊に目を向けた。
「騎士様方、五年の歳月で、前回の【道守り】が薄れて参りました。近頃、近在の森や薮、東の湿地などで魔物を見かけるようになりました。命懸けの大変なお仕事とは重々承知致しておりますが、何卒、宜しくお願い申し上げます」
〈堅苦しい挨拶って、退屈よねぇ〉
魔剣ポリリーザ・リンデニーが騎士らしからぬことを言う。
……一介の村人が、王女殿下に対等な物言いと言うワケには行きませんし、仕方ありませんよ。
〈だからって、だらだら長話する必要はないんじゃない?〉
あちこちで赤ん坊がむずかり、泣く声が聞こえる。母親たちは、声を出さずに乳呑児をあやしながら、そっと後ろへ下がった。
村長の挨拶は、まだ続いている。
ナイヴィスの隣に立つワレンティナが、欠伸を噛み殺した。
〈赤ちゃんは泣くし、従妹ちゃんも退屈してるし、あなたもうんざりでしょ? 村長を黙らせなさいよ〉
……えぇっ? そんな、ムチャ言わないで下さいよ。
それに、ナイヴィスが文官だった頃の上司も、話の長い人物だった。年に数回だが、午前中いっぱい語られることすらあった。
〈慣れちゃってるんだ? それ、フツーじゃないから、気をつけなさい〉
その忠告には、素直に従うことにした。




