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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

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33.魔剣の重み

 街道脇の草地での休息中、ナイヴィスはトルストローグに声を掛けた。

 「あ、あの、トルストローグ、リーザ様が、ちょっと持ってみてって……」

 「リーザ様が? 俺に?」

 「は、はい」

 「何のご用だろ? ……失礼します」


 ナイヴィスは剣帯を外し、魔剣を地面に横たえた。

 緑の手袋小隊で一番の力持ちは、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、魔剣の柄と鞘に手を掛けた。


 地面に貼りついたかのようにびくともしない。

 (つか)と地面の隙間に指を入れ、辛うじて握ることはできたが、その動作でも魔剣は微動だにしない。


 トルストローグは腰を落とし、気合いの声と共に足に力を入れた。顔がみるみる紅潮する。


 しばらく頑張っていたが、ついに諦め、大きく息を吐いて手を離した。

 「びくともせん……ナイヴィス、あんた、こんな重い物振り回してたんですかい?」


 額に汗を浮かべ、荒い息を吐いている。演技には見えない。


 ナイヴィスは恐る恐る、柄に手を触れた。軽く持ち上がる。

 「重いって、なんで……だって、これ、刃がないんですよ?」


 鞘を払う。

 (つか)だけだ。


 トルストローグは片目をつぶり、鞘の中を覗いた。

 「ホントに何もないんだな……って言うか、リーザ様は俺に何のご用だったんだ?」


 「ホントは重いから、嘘だと思うんなら、誰かに持ってもらいなさいって……」

 「嘘だと思ったんですかい」

 「う、うん。だって、こんな軽いのに……」

 すぐ後ろで、男女の笑い声がした。


 二人が振り向くと、ソール隊長とトリアラームルス副隊長、三つ首山羊の杖を持つ王女がすぐ近くに立っている。王女は、(ひざまず)こうとする二人を止めた。


 間近で見る王女は、夏の日に蜂蜜色の髪がきらめき、瞳は深い湖のように静かだった。


 ナイヴィスの思考が、緊張でガチガチに固まる。

 魔剣となった女騎士が鼻で笑う。


 三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)が、ナイヴィスの手にある魔剣に声を掛けた。

 「久し振りですね。……また、あなたとご一緒できて、嬉しいわ」

 〈お言葉、勿体(もったい)のうございます、王女殿下〉

 「……………………」

 「……………………」


 〈何してんの、さっさとお伝えしなさいよ〉


 ナイヴィスが、しどろもどろに魔剣の言葉を復唱する。

 王女は柔らかな微笑を浮かべ、ナイヴィスの顔に視線を向けた。

 「伝えてくれてありがとう。魔剣使い、あなたは魔剣の重さの理由がわかりますか?」

 「い、いいえ……」


 「退魔の魂の重さは、物質的な重量ではありません。退魔の魂となった人の人生の全て。三界(さんかい)の魔物を倒す意志の重みなのです」

 「あの、では、何故、私には軽く感じるんでしょう?」


 「私の口から説明するのは容易(たやす)いけれど、それはよしましょう。あなたが、自ら感じることが大切なのです」


 〈魔剣使いとしての自覚が足りないって言われてんのよ。反省なさい〉


 「は、はい」

 ナイヴィスは背筋を伸ばし、敬礼した。


 王女も鎧を纏っていた。

 深い草色の長衣に土色と草色の糸で、ぎっしりと防禦系の呪文が刺繍されている。


 ナイヴィスが教わった術も、全く知らない術もあった。

 鎧の胸元と、同色のマントには、青で野茨、白で三つ首山羊があしらわれていた。野茨は王家の紋章、三つ首山羊は王女個人の(しるし)だ。


 騎士の鎧以上の重厚な防護だ。

 身に纏えば、それだけでこれら全ての術が常時発動する。想像するだけで、気が遠くなりそうな魔力だ。

 三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)殿下は、騎士以上に強力な鎧を軽々と纏っていた。


 ……護衛……必要ですかね?


 〈必要よ。姫君の御身を守るだけなら、鎧だけでも問題ないけれど、魔物と戦う事態になれば、その強過ぎる魔力で辺り一帯、消し飛びかねないのよ?〉


 ……えっ?


 村と農地をひとまとめに守る力は、同時に、その領域を壊滅させ得る力でもあるのだ。


 ナイヴィスは今更そのことに気付き、顔から血の気が引いた。

 魔剣の思考が、怒りと笑いに揺れ、ナイヴィスは沈黙する他なかった。

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用語は、大体ここで説明しています。

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