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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

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30.何が必要か

 ナイヴィスの懊悩(おうのう)に聞こえないフリをして、ポリリーザ・リンデニーは楽しげに言った。


 〈やっぱり、明るいとこはいいわー〉


 魔剣は魔剣使いと心を繋ぎ、視聴覚を共有する。繋がった心は、苦痛も歓喜も流入させる。

 同じ物を見ているにも関わらず、それぞれ感じ方が違うことが、ナイヴィスには不思議だった。


 〈不思議でもなんでもないわ。私とあなたは別人だもの〉


 ナイヴィスは手綱から左手を放し、柄に触れた。

 柄頭(つかがしら)の【魔道士の涙】は、人肌のぬくもりを保ち、柄を握れば、誰かと手を繋いだかのように錯覚する。


 〈私は民を守る為に騎士になったの。あなたは守りたい人とか居ないの? 例えば……あの従妹(いとこ)ちゃんとか〉

 ……ティナは、私より強いんで、どちらかと言えば、そのー……

 〈あなたが守られる側だった訳ね。今までは〉


 ナイヴィスは今まで、十三歳も年下の女の子に守られてきた。

 その数々の情けない思い出を読み取り、魔剣の思考が呆れる。


 ナイヴィスは右下に目を逸らした。隣を歩む馬の足が見える。

 少し視線を上げると、背筋を伸ばし、颯爽と騎乗するワレンティナの姿が目に入った。


 〈あのね、戦場では強さに関係なく、その時、その場で各自ができることをするの。勿論(もちろん)、持ち場や作戦、役割分担はあるけど、お互いに助け合って守り合わなきゃいけないの〉


 ……私に、できるんでしょうか?

 〈できるんでしょうか、じゃなくて、やるの〉


 疑問を挟むことすら許さない勢いだ。

 ナイヴィスは手綱を握り直し、前を向いた。


 夕暮れ時、今夜の宿を取る村の土塀脇をムグラーと二人で巡邏(じゅんら)する。

 「赤い盾小隊の人が言ってたんですけど、ナイヴィスさん、スゴイですね」

 「……なんの話ですか?」


 困惑するナイヴィスに、ムグラーは我がことのように誇らしげに答える。

 「戦い方、全く知らない筈なのに、魔剣の力を完全に引き出せてるって、スゴイ才能ですよ!」


 「とてもそうは……リーザ様が、合わせてくれてるだけの気がするんですけど……」

 ナイヴィスの落とした肩に、ムグラーが手を置く。

 「そんなことないと思うし、もしそうだったとしても、魔剣にそこまでしてもらえるなんて、それだけ気に入られてるってことですよ」


 「ムグラーが気に入られれば、よかったんですけどね。私なんかより、ずっと強いから」


 〈そう言う問題じゃないの。何度も言わせないで〉


 「魔剣使いに求められるのは、剣の技量や魔力の強さじゃないって、トリアラームルス副隊長が(おっしゃ)ってましたよ」

 「何が必要なんです?」


 それがわかれば、代わってもらえるかも知れない。

 ナイヴィスの淡い期待は、あっさり裏切られた。


 「君にもその内、わかるよって、笑って誤魔化されました」

 「わかったら、ムグラーもそれを身に着けて、魔剣使いになりたいと思いますか?」


 ムグラーは一瞬、驚きに動きを止め、笑って手を振った。

 「いえ、なんか、トリアラームルス副隊長のあの言い方、身に着けるとか、そう言うんじゃない感じがしましたし、自分はいいっス」


 国土を囲む山脈の彼方へ落ちる夕日を眺め、独り言のように言う。

 「……自分の力だけで、どこまでやれるか、見てみたいんで」


 (カラス)の群が、鳴き交わしながら(ねぐら)へ向かう。

 夕映えの空へ、吸い込まれるように小さくなる。

 影絵のような姿を見送り、二人は見回りを再開した。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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