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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第二章 退魔の任務

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29.居心地悪さ

 〈初めてにしては、上出来ね。(ほうき)呼ばわりの件は許してあげる〉

 魔剣に褒められても、ナイヴィスの顔は浮かなかった。

 馬の背に揺られ、再び街道を行く。昼の休息を終え、次の村へ向かっていた。


 夏の強い日射しの下に雑妖はいない。

 すれ違う旅人の顔にも警戒の色はない。

 王家の紋章入りの馬車に道を譲り、深く(こうべ)を垂れる。


 ナイヴィスも、文官だった頃は彼ら同様、道を譲る側だった。

 彼らは三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)を敬い、その護衛に頭を下げているに過ぎないが、ナイヴィスは居心地が悪かった。


 〈そんなこと、いちいち気にしたって仕方ないでしょ〉

 ……はぁ、まぁ、そうなんですけど……


 〈いいから、しゃんとしなさい。民に示しがつかないでしょ。あなた、今、騎士なのよ〉

 それはわかっているが、自ら望んでなったのではない。

 適性があるとも思えない。現に今も、雑妖を剣で消したことで、言いようのない罪悪感に(さいな)まれている。


 〈そんなこと、いちいち気に病んでも仕方ないでしょ〉

 それもわかっている。自らに言い聞かせたように、これは、この世の掃除なのだ。不幸を振りまく存在を放置し、大きな(わざわい)に育てる訳には行かない。


 だが、何故、それがナイヴィスなのか。

 自分の身ひとつ守れない臆病な男に、何ができると言うのか。

 あの日の困惑を思い出す。


 上官は、ナイヴィスに有無を言わせず、城青(じょうせい)警備隊の詰所へ連れてきた。

 碌に説明もせず、置き去りにされたのは、ムルティフローラ城東部の警備を担う部署だった。単に、退魔の(くら)から一番近い騎士団の詰所だから、ここへ預けられたのだろう。


 城青警備隊長は、満面の笑みでナイヴィスに祝いの言葉を述べた。

 祝われたナイヴィスは、何のことやらさっぱりわからず、困惑した。

 取敢えず、魔剣を回収する為に腕を切り落とされる心配はなくなったが、「魔剣使い」の何が「めでたい」のか、わからない。


 「魔剣使い……ですか?」

 「そうだ。異動の手続きが済み次第、正騎士として騎士団に配属される。それまでは、訓練所で待機」

 この説明ができることを名誉あることだと思っているのか、城青警備隊長は嬉しそうだった。ナイヴィスは、予想外の説明で更に困惑した。


 「……正騎士? あのー……私は【飛翔する燕】で、戦いは全然……」

 ナイヴィスは左手で、自分の徽章(きしょう)を城青警備隊の隊長に示した。


 挿絵(By みてみん)


 首から()げた銀の首飾りは、空を飛ぶ燕の意匠。

 天候予測や局所的な気象制御の魔術系統を修めた者の証だ。


 【飛翔する燕】学派の術は、術者の生まれ日の気象や星の配列によって、使える術に制限がある。

 ナイヴィスは雨の日に生まれたので、【やさしき降雨】の術を使えるが、その日は満月ではなかったので、【閃光】の術は使えない。


 この学派の術は、いずれも、暮らしを楽にする術ばかりで、魔物と戦えるような術はない。

 例えば、火の魔物と戦う際に雨を呼べば、少しは弱らせることができるかもしれないが、【やさしき降雨】は小雨を降らせる術だ。文字通りの意味で「焼け石に水」にしかならないだろう。戦いの役に立つとは思えない。


 心を落ち着け、静かに自然と向き合う訓練は受けているが、魔物と対峙(たいじ)し闘志を奮い立たせる修行とは縁遠い。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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